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官能書道/筆おろし
第1章 長鋒
 筆おろしの作業が続く。

 何度かぬるま湯に浸してはしごく、という作業を繰り返して、充分に糊気を落とした後、筆に水をつけて半紙にささっと線を引いた。

 線がかすれず、なめらかに引けたのを満足げに見て、反古紙で水分をふき取り、穂先が手拭いにかかるように並べる。

 太筆を終えて、細筆にかかった。

 細筆は穂の根本までおろさない。
 穂先の三分の一くらいを柔らかくほぐすだけだ。
 油断するとおろしすぎになって使いづらいため、慎重におこなう必要があった。

 親指に人差し指と中指をあてて優しく持った細筆が、まるで紅《べに》でも塗るように、涼子の繊細な唇にあてられた。
 ただし、紅筆とちがって、手の甲を上にして持つ。
 小指がわずかに立てられているのが、指先をひときわ美しく見せていた。

 そのまま、筆先をそっと口に含んだ。
 歯で軽く噛んで固さを除き、唾液で温めながら糊をとって、好みの状態にするのである。

 涼子はノーメイクだった。
 素のままでも瑞々しい桜色の唇が、穂先を咥えてゆるゆると動く。
 ほんの少し開けられた唇の間から、白い歯とピンク色の舌先が見えた。
 
 濡れた舌先が、ちろちろと探るような動きをする。
 先端の命毛を痛めないように、細心の注意をはらっているらしい。
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