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魔法使いの誤算
第2章 /2
期間限定と言う言葉に弱い私は香水に限らず買ってしまう癖がある。
その時にしか買えないと思うと、買わなきゃ損だと言う思考になるのだ。
だからこのSecret Roseも買っているはずなのだが、私はこの香水を持ってもいないし、知らない。
記憶の引っ掛かりに何だか気持ち悪い感じがした。
小骨が喉に刺さり取れないような違和感が心地悪い。
「宜しければお試しにいかがですか?」
違和感に心地悪さを覚えながらSecret Roseを見つめている私に店員さんがそう言い、香水を噴き掛け香りのついたムエットを渡してくれた。
「ありがとうございます」
お礼を言いながらムエットを受け取り鼻に近づけ香りを嗅いだ瞬間、頭の中に早送りされた様な映像が一気に流れた。
記憶の引き出しを乱暴に抉(こ)じ開け、思い出を乱暴にバラ撒かれているようだ。
脳みそを素手で掻き回されている感覚に立ち眩みがする。
何これ?
走馬灯?
走馬灯って死ぬ直前に見るものじゃなかった?
記者会見の映像によくあるカメラのフラッシュに似た光の点滅が頭の中で忙しなく繰り返され、そしてーーーその光の点滅の中に誰かがいた。
光の点滅がその人物の顔に靄の様な影を被せて邪魔をする。
顔は分からないが、男と言う事は分かった。
それからもう一つ。
靄の様な影から瞳だけがハッキリと見える。
茶色と緑色が混ざったような色をした神秘的な瞳。
まるでロシアンブルーの様な瞳。
『夕日ーーー』
その瞳が私の名前を言っていた。
Secret Roseの香り。
期間限定の香り。
この香りはーーー
「どうした?」
その声は聞き慣れた安心出来る声で、無理やり開けられた引き出しからロシアンブルーの瞳の男に関する記憶を探す私に尋ねる。
私は記憶を辿りながら頭を押さえた。
頭の中で色んな映像が早送りで流れた為、少し頭痛がする。
私の様子がおかしい事に気づいた京平は『大丈夫?どうしたの?』と心配の言葉をかけながら、私の背中を擦ってくれた。