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魔法使いの誤算
第2章 /2
すると京平は引き攣った表情を私に向け、両手で私の顔を包んだ。
じんわりと京平の手の平が汗ばんで湿っている。
顔色も悪く、物凄く怯えた目をしていた。
そんな歪な顔をしながらも、平然を装う様に口角を上げて笑った京平が今から飼い主に捨てられる犬の様に見えた。
一生懸命愛想を振りまき捨てられないよう足掻く、そんな可哀想な犬に見えた。
「京平……?」
その歪な笑顔に京平が遠くに行ってしまいそうな恐怖を覚えて名前を呼んだが、返事をしてくれなかった。
『どこにも行かないで』と言う為に口を開いたが、京平の言葉に遮られ心の中でその言葉は溶けて消えた。
「夕日はロシアンブルーの瞳をした男なんて知らないし思い出してもない。二度と思い出すこともない。さっき思い出したことも君は全部忘れる。夕日は何も見なかったし俺に何も聞かなかった。ただ新作の香水を買いに来ただけ。そして夕日はこの香りが嫌いだ。だから二度と嗅ぎたいなんて思わないしましてや買いたいとも思わない」
それは呪文の様な長々しい台詞だった。
「なに………」
『何言ってるの?』と呪文の様な台詞に対して聞こうとしたが、強烈な睡魔と頭痛に声が出なくなった。
立っているのも辛くて目の前にいる京平の肩を掴みバランスを取る。
「ぉ客様?ぃーーーかがなーーーさぃましーーーたーーーかーーー?」
私を心配する店員さんの呼び掛けが凄く遠くから聞こえる。
すぐ側にいるはずなのに何十mも先から呼び掛けられている様で気持ち悪い。
何だろう、何でいきなりこんなに具合いが悪くなったの?
そもそも私は何をしているの?
ーーー何してたっけ?
あれ?
「夕日はこの臭い嫌いだよね?」
頭の上からそんな問い掛けが聞えて、私は軽くなった頭を上げてニッコリ笑った。
私ったら、香水の臭いに酔を起こすなんて。
香水好きが聞いて呆れるわ全く。
どうやらこの香水は私の鼻とは相性が悪いらしく、立ち眩みを引き起こすほど気分が悪くなってしまった。