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魔法使いの誤算
第2章 /2
頭痛が薄れたおかげで元気が戻った私は、京平の肩から手を離し苦笑いをしながら香水を見た。
「私この香水駄目みたい。何だか気分が悪くなっちゃった」
薄ピンク色の香水の瓶が照明に反射してキラキラ輝いているが、その輝きさえも鬱陶しく思えた。
MARIAの香水は好きだが、この香水だけは生理的に無理だった。
見た目も香りも。
この香水目当てで百貨店に来たが、完全に興味をなくしてしまった私は嫌な臭いが染み付いたムエットをゴミ箱に捨て隣の化粧品のブースに移動した。
もうSecret Roseを目にも入れたくなかった。
ムエットに2年振りに再販された香水の液体を噴きかけ鼻に近づけると、甘ったるい貼りつくような臭いがして吐きそうになった。
2年振りに嗅ぐ大嫌いな臭いに胸糞悪くなる。
Secret Rose?和訳すると【秘密の薔薇】と言う意味だが、厨二病臭くてダサい名前だ。
見た目も臭いも最低なら名前も見合ったセンスのないもので、これを好んで愛用していた"あいつ"のダサさがよく分かる。
香水の瓶を手に取り眺めていたら、店員が少し気まずそうな顔をしながら俺に話しかけてきた。
「彼女さんにはこちらの商品合わなかったようですね。立ち眩みまで起こしてしまって、体調大丈夫でしょうか?」
この臭いに物凄い拒絶反応を示した夕日を間近で見ていた店員は、少し引き気味にそう言いながら口先だけの心配をしていた。
だから俺は笑顔で『お気遣いどうも』と言い、軽く会釈した。
その反応に調子付いた店員は聞いてもいないのにこの最悪な香水の紹介をしてきた。
「こちらの商品は2年前に期間限定で発売されていた物なんですよ。リピーターの声が非常に多かったのでこうして再販させて頂きました。こちらの香水は他の香水とはちょっと変わっていて、薔薇の花蕊を使っているのでとてもセクシーな香りに仕上っています。ちなみに花蕊と言うのはーーー」
「雌蕊と雄蕊の事ですよね?」
店員の長々しい説明を遮り花蕊が何なのかを答えたら、『よくご存知ですね』と上から目線で感心され愛想笑いを向けられた。
俺は瓶を元の位置に戻し、鼻につく臭いが染み込んだムエットを店員に渡しながら言った。
「殺しておけば良かった」
俺の言葉に店員は『え?』と情けない声を上げたまま口を開きっぱなしにし、俺を見ていた。