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魔法使いの誤算
第2章 /2
「あの………」
ギュッとキツく髪を一つに束ねる店員に恐る恐る声をかけた。
店員があまりにも険しい顔で目当ての香水の瓶を手に持ち眺めていたから、声をかける事に少し勇気を振り絞った。
こんな怖い顔をして自分の店の商品を睨む店員は初めて見た。
接客態度としていかがなものかと思う。
俺の呼び掛けに気づいた店員は魔法が解けたかのようにハッとした顔をし、急いで愛想笑いを顔に貼り付け俺に近付いてきた。
その切り替えの速さも何だか怖く思えた。
「いらっしゃいませ。いかがなさいました?」
真っ白な歯を見せながら笑い、要件を訪ねてきた店員に俺は指を指しながら答えた。
「その香水欲しいんすけど……」
指さす先には店員が手にしている香水があり、照明に反射してキラキラ輝いていた。
すると店員はピクリと片眉を上げ、バツの悪そうな表情を一瞬覗かせた。
だから俺は売り切れてしまい、サンプルであるそれをしまおうとしている途中だったのだと思った。
「売り切れました?」
何だか妙な顔をしている店員に苦笑いしながらそう尋ねると、店員は首を左右に振り『今お持ちします』と答え並べられた鮮やかな色をした箱の中から一箱持って来てくれた。
その箱はパステルピンクに真っ赤な薔薇と棘が描かれていて、2年前と同じデザインだった。
懐かしさに口元が緩み、まじまじとその箱を眺める。
黒文字で"Secret Rose"と印刷されている箱を。
「懐かしいな。まさか再販したなんて嬉しいです」
「お客様、以前ご使用されていらしたんですか?」
「はい。けど期間限定だったから買えなくなって残念に思ってたんですよ。俺香水の中でこれが一番お気に入りなんです」
そう言い喜ぶ俺に店員は少しホッとした表情をした。
その表情に疑問を抱き首を傾げると、店員は苦笑いをしながらホッとした表情の理由を話した。
「実はつい2時間ほど前にそちらの商品を試されたお客様がいらっしゃいまして。カップルでいらしたんですけどどうも彼女さんの方がこちらの匂いが苦手だったらしく立ち眩みを起こしてしまいまして。しかも彼氏さんの方はあからさまにこの匂いを嫌っている様子でして、この香水を取り扱っているこちらとしては少々残念な気持ちになってしまったんです。けどお客様が喜んでくださったお陰で少し安心できました」