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魔法使いの誤算
第2章 /2
そう話した店員からは仄かにSecret Roseの香りがした。
自分のつけている香水をあからさまに嫌がられたら、確かにショックだし残念な気持ちになるのも無理ない。
臭いって言われているようなもんだからな。
そりゃあ、険しい顔にもなるわ。
「そんなに癖のある匂いですかね?」
「特に癖はないと思うのですが、たまたま体調が優れなかったのかもしれませんね」
そうフォローしながら俺をレジまで誘導する店員に俺は『変人カップルだったんですよきっと』と言い、香水をフォローした。
すると店員は苦笑いをしながらレジの前に立ち、俺から香水の箱を受け取ってバーコードをスキャンした。
赤外線の赤い光がピカっと光り、画面に4桁の数字が表示された。
「11500円でございます」
画面に表示された額を店員に言われた俺は財布から一万円札一枚と千円札二枚を引き抜きカルトンの上に置いた。
なかなか痛い出費だが、仕方ない。
カルトンごと金を受け取り、レジ画面を操作する店員。
そして12000円は金色の500円玉に姿を変えてレシートと一緒にカルトンの上に乗って返ってきた。
500円玉とレシートをカルトンから受け取り500円玉は小銭入れにしまい、レシートは丸めてデニムのポケットに入れた。
「ありがとうございます」
先程の険しい顔とは180度違う素敵な笑顔で店員は俺に香水の箱が入った半透明の袋を渡す。
半透明の袋を受け取った俺は『どうも』と短いお礼を店員に言い、MARIAのブースを後にした。
半透明の袋から透けて見えるパステルピンクの箱を眺め、店員の言っていたカップルがどんな人物だったのかを想像しながらエレベーターに乗り込み、1のボタンと閉のボタンを順番に押す。
ゆっくりとエレベーターの扉の隙間が狭くなっていく中、一人の女性が目に入った。
その女性の手には今流行りの化粧ブランドの紙袋がぶら下がっていて、ニコニコ幸せそうに笑っている。
あんな彼女が欲しいなと思っていたら、恐らく彼氏であろう男の声が聞こえた。
「夕日ー、お待たせ」
珍しい名前だなと思いながら目を逸らさず彼女を見つめていたら、不意に彼女が俺の方を見た。
目が合った瞬間、俺の口が勝手に呼んだ。
「夕日………」
それは夢の中で呼べなかった名前だった。