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魔法使いの誤算
第3章 /3
『京平はママのためだけに魔法を使うのよ?分かった?』
愛されたかった俺はあの人の従順な犬だった。
ある意味あの人も魔法を使える人だった。
俺の心を巧みに操り私利私欲の為に俺を利用するだけした女。
報酬は"愛もどき"だった。
あの人の望みを叶える度にあの人は俺を撫でたり抱き締めたり『愛してる』と囁いてくれた。
カラカラに乾いた心はそれらの全てを愛だと誤認し、吸収していた。
けどあの人が俺に与えていたそれらは愛なんかではなかった。
アルコールに似ていた。
摂取すればする程脱水を起こす愛。
いくら飲んでも乾いたままでもっと頂戴とせがむ俺に、あの人は愛もどきを餌に心を操る。
『ママは魔法を使う京平が大好きなの』
俺にだけ効く特別な魔法。
だから俺はありとあらゆるあの人の願いを叶えた。
6才の誕生日を迎えたあの日まで、ずっと。
『京平はママが好き?』
好きでした。とても。
『ママが他の子のママになるの嫌でしょ?』
嫌でした。死ぬほど。
『だからお願い京平ーーー』
なに?ママ。
『ママのお腹にいる赤ちゃんが消えますようにって、お願いして?』
俺はお母さんが好きなだけだったのにーーー。
「京平?」
悪夢から俺を引っ張り上げてくれたその声に、涙が出ていた。
目尻を伝い涙が流れているのを感じる。
「怖い夢でも見た?」
母性を孕んだその暖かな声と口調に安心し、ゆっくりと目を開けると愛しい夕日が俺を覗いていた。
頭を優しく撫でて『大丈夫よ』と言いながら額に軽くキスをしてくれた。
「お母さんの夢を見たんだ」
悪夢を見たあとは胸が重くなる。
ゆっくりと強く押さえつけられているような圧迫感に胸が張り裂けそうになる。
「夕日……」
「大丈夫。私がいるよ」
そう言い強く抱きしめてくれた。
俺は夕日の温かな胸の中で"愛もどき"の心地よさにまた涙を流した。