この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
魔法使いの誤算
第3章 /3
「是非とも検討をお願いします」
「はい。ありがとうございました」
お互いに頭を軽く下げ合い商談を終わらせ、お決まりの雑談が始まる。
「最近どうですかプライベートの方は?」
これもビジネスの一環と思い、笑顔で付き合う。
本当は面倒臭いのだが仕方がない。
「変わりなくですよ。椎名さんはどうですか?」
鸚鵡(おうむ)返しで対要する俺に、椎名さんはスマホ画面を見せてきた。
画面の中には赤ちゃんの画像が映し出されていて、椎名さんは嬉しそうに自慢してきた。
「初孫が先月生まれましてね。いやぁ、可愛くて可愛くて」
幸せ自慢に俺は『おめでとうございます』と面白味のないお決まりの言葉を椎名さんに返し、『可愛いですね』と椎名さんのご機嫌取りをした。
正直他所の子を可愛いだのと感じたことはない。
所詮は他所の子。興味を抱けない。
「孫って言うのは何でこうも可愛いんだが。本当に本当に可愛くて食ってしまいたいくらいですよ」
よく聞く台詞だ。
可愛すぎて食べてしまいたくなると言う比喩はとんでもなく重く恐ろしく深い愛情表現だと思う。
孫と言うのはそこまで可愛いものなのか……。
結婚もしていない俺が孫の可愛さなど理解できるはずがなく、愛想笑いをしてその場を乗りきっていた。
「そう言えば、佐木下さん恋人がいますよね?」
「はい」
「どれくらいでしたっけ?お付き合いして」
「来月で2年になりますね」
「ご結婚は考えてないんですか?」
夕日との交際期間を聞いた椎名さんはニコニコ笑いながら、とてもデリケートな質問をしてきた。
一緒に仕事をさせてもらって3年くらいになるが、俺は椎名さんのこう言う答え辛い質問をしてくるところが苦手で未だに慣れない。
「考えてますが、お互いにまだ若いので」
適当にそれっぽい理由を作り答えれば、『23歳ですもんねまだ』なんて言われた。
結婚するには若い年齢だと分かっているなら聞かないでほしい。