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魔法使いの誤算
第3章 /3
「まぁ、あまり長い春はオススメしませんよ」
交際期間2年目になる俺に椎名さんが刺さる言葉をぶつける。
見た目はほんわかしているのにその中から出てくる言葉はとてもキツい。
本当にこの方は容赦ない。
「肝に銘じます」
心の中で舌打ちをしながらそう言い、椎名さんを見た。
ほうれい線に目尻の皺。
無理して若作りしている茶髪の髪に数本混じる白髪。
顔のシミとハリのない肌。
ああ、こんな50代後半の爺に苛つくなんて俺も心が狭い。
三途の川に片足を突っ込んでいる年齢の椎名さんの言う事にいちいち気にしている自分の小ささや余裕の無さに反省をした。
相手は仕事で繋がっているだけの人だ。
プライベートで関わることなんて絶対にないのだから割り切れ。
まだまだ考えがガキな自分にそう言い聞かせ、椎名さんのお節介なアドバイスや幸せ自慢に俺は30分近く付き合った。
その間俺は心を無にし、予め答えを決められている機械のように当たり障りのない言葉を返したり、頷いたりしてやり過ごしていた。
もちろん笑顔で。
「長々とお邪魔してしまいすいませんでした。では失礼します」
「はい。お疲れ様でした」
一通り話し終え気が済んだ椎名さんはやっと椅子から腰を上げてくれた。
笑い過ぎて攣りそうな口元を必死に吊り上げながら俺は事務所のドアを開けて見送りの体制に入った。
事務所から出る寸前、椎名さんは俺にひとことお節介なアドバイスを残した。
「あまり長く待たせ過ぎると、女は逃げますよ?」
そう言い残し、椎名さんは事務所を後にした。
俺は椎名さんの小さくなっていく後ろ姿に『うるせーよ』と呟き舌打ちを打った。
やっぱり、いくら仕事でも苛つく時は苛ついてしまう俺だった。