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魔法使いの誤算
第3章 /3
椎名さんの見送りが終わり貼り付けていた笑顔を剥がした途端、一気に疲れがのしかかり体が重くなった。
身体的な疲れよりも精神的な疲れに弱い俺は椅子に座り、ディスクにうつ伏せた。
いくら仕事とは言え、興味のない話に付き合うのは物凄くエネルギーを消耗する。
「随分お疲れだねー」
頭上からそんな呑気な声が聞こえ顔を上げると、先輩の加島さんが缶コーヒーを飲みながら俺を見下ろしていた。
俺は苦笑いをしながら肩を回した。
話を聞いていただけなのに、何だか肩が凝ってしまった。
「毎回毎回商談の度にサギも大変だね。爺の話に付き合わされて」
「まぁ、仕事ですから仕方ないですよ」
内心では苛つき鬱陶しいと思っているのに、外面のいい俺はあたかも割り切っている様な事を加島さんに言った。
俺の言葉に加島さんは『大人だねー』と感心し、隣のディスクに座った。
カチカチとキーボードを打ち込む音を聞きながら、俺は椎名さんに紹介された商品の資料に目を通した。
「てか、お前結婚しないのかとか聞かれてたな」
椎名さんとの会話を盗み聞きしていたらしく、加島さんにデリケートな話を蒸し返された。
俺は資料に書かれている細かな文字を目で追いながら『まぁ、はい』と、適当に返事をした。
俺なりの"その話をするな"と言うアピールだったのだが、加島さんには通じなかった。
「で?結婚しねーの?」
耳心地の良いキーボードを打ち込む音を俺に聞かせながら椎名さんと同じ質問をしてきた加島さんに、俺は『後々』とだけ答え資料を捲った。
『後々』と言う答えに対し加島さんは『まぁ、お前まだ若いからな』と、椎名さんと同じ様な言葉を返された。
だから、そう思うなら聞くなようるせーな。
「若い内は遊んどけ。お前格好いいんだから勿体ねーよ」
加島さんの言う"遊んどけ"と言うのが"ヤッとけ"と言う意味だと理解している俺は頷かず、無視をした。
それに格好いいんだから勿体ねーよと言う加島さんの言葉の意味がよく理解できなかった。
一体何が勿体ないのか。
「バイトの愛理ちゃんなんてお前の事格好いい格好いいってゴリ押しよ?あんな可愛い子に格好いいって言われるなんて羨ましい限りだよチキショー」