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魔法使いの誤算
第3章 /3
いいリアクションをした泉川さんに口元が緩む。
「なんだかこればっか売れそう」
バナナクレープの香りのリップクリームを俺に返しながら、売れ方に偏りが出ると予想した泉川さん。
その予想にも俺は同感だった。
俺はサンプルのリップクリームを輪ゴムで一つに纏め、もう一度資料に目を通した。
「しかし佐木下君は似合うわね化粧品」
いきなりそんな事を言ってきた泉川さんの言葉に俺は複雑な気持ちになった。
褒められてると受け取っていいのだろうか?
「肌綺麗なうえに色白でさぁ。男版白雪姫って感じ。あ、男だから白雪王子か」
「それ褒めてます?からかってます?」
「羨んでんのよ。そんな綺麗な顔で羨ましいわ。うちの息子とはエラい違い。卯月ちゃんが言ってたわよー?佐木下君が化粧品担当になってから売れ行きいいって」
顔と仕事に関して褒められた俺は素直に嬉しくてニヤけた。
そんな俺に軽く肩パンをしながら泉川さんは言った。
「こんなイケメンで一途な彼氏持てた彼女は幸せ者ね」
"幸せ者ね"。
その言葉に頷けなかった。
『愛してる』
夕日の声が頭の中で響いて消えていく。
白い湯気がゆっくりと空気に溶けていくように。
ふと、思う時がある。
この『愛してる』は本心なんじゃないかと。
もしかしたら呪いを解いても俺を愛してくれるんじゃないかと。
そう勘違いする時がある。
「クリスマスはどうするの?どっか行くの?」
クリスマスの予定を聞かれ、頷く。
泉川さんは『楽しみなさいよー』と言いながら肩を叩いた。
俺は『はい』と小さく返事をした。