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魔法使いの誤算
第3章 /3





仕事が終わり帰宅すると、部屋の中は真っ暗だった。
今日も夕日は仕事が遅くなるのだろう。

お腹を空かせて疲労した姿で『ただいま』と帰ってくるはずだからお風呂を沸かしてご飯を作って待っていよう。

疲れた体をすぐに温められる様に。
空きっ腹をすぐ満腹に出来る様に。

短い廊下を歩きリビングのドアを開け、電気を点ける。
仕事帰りの途中にあるスーパーで買った食材をエコバッグから取り出しキッチンに並べた。

挽肉が半額になっていたので、今晩はハンバーグにする事にした。


まな板の上に皮を剥いた玉ねぎを乗せ、包丁でみじん切りにしていく。
玉ねぎの水っぽいシャリシャリした音と、まな板に包丁の刃が当たる音が混ざり合い静かなキッチンに響く。




キッチンは嫌いだった。
寂しい気持ちにさせていたからだ。

あの人がキッチンに立つ時は換気扇の下で煙草を吸うときだけだった。
シンクの中は食器で溢れかえり、水カビで酷く汚れていた。

与えられるご飯はコンビニ弁当やら菓子パンで、お袋の味など一度も口にした事が無い。

ご飯を与えられない日も多々あり、そんな日は冷蔵庫を漁り食べられそうな物を食べて凌いでいた。

5才になる頃にはインスタントラーメンを容易く作れるようになっていた。

自分でやらなければいけなかった。
誰も面倒を見てくれないから自分の面倒は自分で見なければいけなかった。

キッチンに立つと惨めな気持ちになっていた。

義母と義父は優しい人達だ。
食卓には沢山のご飯が並べられていた。
自分でインスタントラーメンを作る必要など微塵もなかった。

それでもキッチンは嫌いだった。
換気扇の下は近寄りたくもなかった。

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