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魔法使いの誤算
第3章 /3



けど夕日が俺に言ったんだ。
サーカスのパフォーマーを見るような目で俺を見ながら。

『きょーへい料理できるのすごい!!』

仕方なくしていた事が初めて褒められた瞬間だった。
周りの大人達はインスタントラーメンを容易く作れる俺を可哀想だと言っていたが、夕日はそれを凄いと褒めてくれた。

どれだけ嬉しかったか。





『京平の料理が一番好き。ママの料理より好き』

呪いをかけられる以前から俺の料理を好きだと言ってくれていた。
だから俺は君の為に作る料理が好きだ。
美味しい美味しいと言いながら頬張る夕日の姿が大好きで、その『好き』だけは"本物"だから。

みじん切りにした玉ねぎをボウルの中に放り込む。
そして2玉目の玉ねぎに包丁を入れる。

想像した。
結婚しても俺が料理を作り、その料理を夕日が美味しい美味しいと言いながら食べる。
いや、夕日だけじゃない。
俺と夕日の子供も一緒に美味しい美味しいと言いながら食べるんだ。

子供に『ママは料理できないねー』なんてからかわれる夕日を見ながら俺は笑い、絵に描いたような幸福に溺れるのだ。

そんな完璧な未来を想像した。



「あれ?」

幸せな想像のはずなのにーーー

「なんで?」

涙が出た。


玉ねぎが目にしみただけだ。
きっとそのせいだ。

シャキシャキ。
トントン。

玉ねぎが細かくなっていく音。
まな板に当たる刃の固い音。
それから、

「うっ………ふぅ……」

俺の声を押し殺す音がキッチンを少しだけうるさくした。

玉ねぎが目にしみているだけだ。
だから目の前が滲んでいるんだ。
玉ねぎの臭いがキツイせいで鼻がツンとするだけだ。

「今日も……美味しいって食べてくれるかな……」

ポタポタと涙を垂らしながら玉ねぎをみじん切りにしていく。
鼻の奥がツンとして余計に涙が溜まっていく。
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