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魔法使いの誤算
第3章 /3
「疲れたでしょ?ご飯出来るまでもう少し掛かるからお風呂先に入ってきたら?」
奥さんが仕事帰りの旦那さんに言う様な台詞をニコニコ笑いながら言い、リビングに戻って行った京平を見て仕事の疲れがほんの少し取れた。
温かなお風呂と美味しいご飯と、優しい京平が待つここに帰れる事を本当に幸せに思う。
どれだけ仕事が忙しくても、どれだけ辛いことがあっても、必ず一日の終わりには京平がいる。
それだけで嫌な事全部がチャラになる。
冷えた鼻先に暖房の温かな空気が触れた。
京平がいる場所はどんな場所でも温かい。
リビングに入り、マフラーを首から外しコートを脱ぐ。
身軽になった身体をソファーに座らせ天井を見上げると、オレンジ色の照明の灯りが眩しくて目を細めた。
「お風呂入んないの?」
ソファーに座りくつろぎ始めた私にキッチンからそう聞いてきた京平。
私は目を細めたまま答えた。
「京平と一緒に入る〜」
私にそう言われた京平はクスクス笑いながら『エッチ〜』とふざけた言い方をし、フライパンで何かを焼いていた。
油の跳ねる音と匂いが空腹をひどくする。
私はテレビの電源を点け、観たい番組を探しながら京平に晩御飯のメニューを聞いた。
京平は『夕日の好きなものー』と言い、何を作っているのか勿体つけて教えてくれなかった。
「チンジャオロース?」
「ハズレ。てかチンジャオロースの匂いじゃないでしょ」
「ん〜、オムライス!!」
「チキンライスの匂いしましたか?」
「なんだろ………あっ!!」
晩御飯のメニューが何なのか分かった私は生唾を飲み込み、キッチンの方へ顔を向けた。
カチンとコンロを捻り火を消す音が聞こえ、フライパンから晩御飯のメインメニューのそれが菜箸に挟まれているのが見えた。
面長の丸い肉の塊。
チンジャオロースと張り合うくらい大好きな料理。
「ハンバーグだ!!」
「正確」
子供のようにはしゃぐ私を見て京平は『馬鹿だなぁ』と呆れながらも楽しそうな顔で笑っていた。