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魔法使いの誤算
第3章 /3
その顔を見るのは今日で何回目だろうか。
そしてその顔に気づいていないフリをするのは何回目だろうか。
『ずっと一緒にいたい』
この言葉が意味するのはーーープロポーズ。
指輪を渡されたわけじゃない。
婚姻届を差し出されたわけじゃない。
けど間違いなくこの言葉が意味するのはプロポーズなのだ。
指輪を渡されないのも、婚姻届を差し出されないのも、私が阻止しているからだ。
愛していないの?
そう聞かれたら全力で否定する。
私は京平を凄く愛している。
心の底から愛している。
まだ22歳だし、仕事もまだまだだし、貯金も少ない。
それら全てが不安要素となり邪魔をしているのだと思う。
京平を愛している。
けど結婚となると不安なのだ。
特に子供のことは不安でしかない。
自分はしっかりと子育て出来るのか。
ちゃんと母親になれるのか。
「……クリスマス、どっか行きたい?」
不意に京平にクリスマスどこへ行きたいか聞かれ、何も考えていなかった私は答えられず困った顔しか出来なかった。
京平はハンバーグを食べながら『考えといて』と私に言い、真顔のまま咀嚼していた。
先程までの和やかな空気が少し重くなり、ジメっとしたような息苦しさを纏う。
そんな空気が嫌で私はハンバーグを勢いよく食べながら『めっちゃ美味しい』を連呼した。
けど京平は真顔のまま白米を口に運び味噌汁と一緒に飲み込んだ。
プロポーズを意味する言葉を言われた日は必ずこうなる。
お互いどちらも悪くない。
だからこそどうすればいいのかわからない。
「ごちそうさま」
空になった食器を重ね、両手に抱えキッチンのシンクの中へと運んだ京平は明らかに元気がなかった。
まだ全然減ってはいないハンバーグをひとり占めしながら、寂しく美味しいハンバーグを頬張った。
キッチンからは食器を水ですすぐ音が聞こえてきた。
同じ空間にいる私達はその後何も言葉を交わさず、お風呂も別々に入った。