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魔法使いの誤算
第3章 /3
分かっているのに、プロポーズを意味する言葉を言ってしまうのは"あいつ"より劣る自分を認めたくないからだろう。
『あまり長い春はオススメしませんよ』
椎名さんの言葉がリピートされる。
その言葉に対して俺は『じゃあどうすればいい?』と尋ねることしか出来ない。
俺は夕日と結婚したいのに。
ずっと一緒にいたいのに。
夕日だけがいれば幸せなのに。
長い春が駄目ならどうすればいい?
ーーー呪えばいいだけだろ?
俺の中の黒い感情が耳打ちする。
欲しければ心を矯正して思い通りにすればいい。
簡単だろ?だってお前は悪魔なんだから。
やれよ。ママにしたみたいに。
「うるせぇよ……うるせぇ……」
耳を塞ぎ黒い感情を黙らせる。
簡単な事なんだ。
夕日と結婚するなんて言うのは。
ひと言夕日に言えばいいのだから。
『夕日は俺と結婚する』
そう呪えば夕日と結婚出来るのだからそうすればいい。
それでもそうしないのはーーー残っている小さな良心が痛むからだ。
そして分かっているからだ。
そんな方法で夕日を永遠に手に入れたところで、今よりも苦しい思いをする。
寂しくて虚しくて惨めになる。
自己中心的な自分に頭が痛くなった。
寝室のドアを開け、ダブルベッドの上で丸まり眠る夕日に近付く。
ベッドに座るとスプリングがギシッと軋み音をたてた。
夕日の頭をそっと撫でたら、俺の方に寝返りを打ち『きょーへ』と寝言を呟いてくれた。
愛おしくてたまらない。
「分かってるよ夕日。君が誤魔化す理由」
胸が圧迫されるような苦しさで息がしづらくなる。
「愛してないもんね?俺のこと。"あいつ"とは結婚しようとしてたのに……ね?」
鍵をかけていた記憶の引き出しに鍵をさし回す。
飛び出してきた記憶は笑っている夕日の顔だった。
『 と私結婚する事になったの』
夕日、君は呪いをかけられてもなお"あいつ"を愛してるんだね。