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魔法使いの誤算
第4章 /4
チョップされ痛めた首の後ろを擦りながら瀧が俺を涙目で見る。
少し口を尖らせ、小さな音の舌打ちをしていた。
「パラハラっすよ」
「コミニケーションだよ」
チョップをパワハラだと訴える瀧に対して俺はそう答えて笑った。
納得いかないような顔をし首を傾げながら、瀧はボソッと呟いた。
「前世の記憶?」
突然そんなオカルト的な事を言い出した瀧が心配になり、俺はアスファルトに煙草を押し潰しながら『どうした?』と瀧を見上げ顔を伺う。
瀧は真顔で俺を見下ろした。
「千さんの見てる夢って前世の記憶とかじゃないっすか?」
今まで見たことも無いような真剣な眼差しでそう言われてしまい、あまりの目力にからかいの言葉も出てこなかった。
ゆっくりと立ち上がり2本目の煙草を口に咥えジッポで火をつける。
オイルの匂いが一瞬して、冷たい風に溶けて消えていく。
幽霊やらUFOやらフリーメーソンやらに興味もなければ否定派の俺は"前世の記憶"など一切信じていない。
輪廻転生も、天国も地獄もだ。
だから瀧の言葉に俺は首を振った。
「んなもん、ある訳ねーだろ」
ひとつの可能性を否定された瀧は腕を組み、さらに別の可能性を言ってきた。
「じゃあ、運命の人とか?」
これまたメルヘンチックで非現実的な可能性に俺は呆れてしまった。
そして瀧がオカルトやメルヘンチックな事を割と真剣に信じているという事実を今日始めて知った。
煙草の煙を吐き出しながら曇り空を見上げる。
寒さで口から出る白い息と煙が同時に吐き出された為、通常の倍の量で煙が空へと上がっていく。
段々と薄くなり消えていく白い煙を眺めながら、百貨店で見た彼女の顔を記憶から探る。
どこかの記憶に隠れているはずなのに、探れども彼女は出てこない。
記憶のアルバムにいる彼女は、最近追加された百貨店での彼女だけだった。