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魔法使いの誤算
第1章 /1



「私っていつからミルクティー飲めるようになったっけ?って思って記憶を辿ってたの。そしたら高校時代の事思い出して、懐かしさに浸ってた」

「夕日ってミルクティー飲めなかったの?」

「てか紅茶が無理だったからミルクティーも飲まず嫌いしてた。けど、気付いたら飲めるようになってたのよね……不思議」

「どーせ男の影響とかでしょ?苦手なもの克服した女って男の影響が大半だからね」

僻むような言い方でそう言いブラッドオレンジジュースを飲む玲香の姿が面白くて、思わずクスっと笑ってしまう。
笑われた玲香は舌打ちをしながら『リア充の余裕ムカつく』と悪態をつき、私のパンプレートから勝手にレーズンパンを盗って食べてしまった。

「ちょっと何勝手に食べてんの!?」

「うっせ!!パンの一つくらいよこしなさいよ幸せ者!!」

自分のトマトクリームパスタもまだ食べ終わっていないくせに、パンプレートの中で一番大きいレーズンパンを頬張る玲香に笑いながら、私はまた頭の引き出しを引っ張り開けていく。

けど、やっぱり見つけられなかった。




"人間の脳は新しい記憶を上書きしていき、古い記憶を忘れていく。"



京平が前にそんな事を言っていたのを思い出して、きっと上書きされて忘れてしまったんだと結論を出した。

覚えていなくても支障のない記憶だし、忘れるのも無理ない。

子供の頃、ピーマンが食べれなかったけど大人になった今は食べれる。
気付いたら食べれる様になっていたし、そんな事いちいち覚えている人の方が珍しいはずだ。

だからまぁ、きっとピーマンが食べれる様になったのと同じで気付いたら飲めるようになってた。
飲めるようになった事に意味はない。

コクリとミルクティーを喉に流し込み、頭の引き出しをそっと閉めた。
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