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自由という欠落
第6章 もつれていく
夏の間は見かけにくくなっていた制服姿の学生達が、街の景色に戻ってきて、一ヶ月ほど経った。
二ヶ月あった休暇中、ほぼ毎日、まひるはのはなと過ごしていた。丹羽の店で何度か迎えた繁忙期でさえ、これほど顔を合わせた従業員はいなかった。
演劇部の稽古は論をまたず、のはなが熱を上げている例の歌劇団の舞台も観た。彼女の贔屓のチームが公演期間に入って、二度目の誘いに応じたのだ。
幸福も不幸も分け隔てなく、あまねく事象に、感情に、揺るぎない価値観として美意識を置いた作り物の空間は、そのくせ重厚な焔が観客らの心魂を拳で殴打しているようだった。甚だ美しい絵物語でも、紛い物でも、愛やら憎悪やら信頼やら不審やらがまとわれば、美しいだけにはとどまれないということか。
心陽と誘い合わせて、映画や買い物にも出かけた。部活のない日を選んだことで、まひるは休日の街を体験した。雑然とした人混みに衝撃を受けた。販売業務をしていた三年間は、世間一般の休みが就業日で、世間一般の就業日が休みだったからだ。中学生の時分が、つい懐かしくなった。
大学生の夏休みは長かった。
祭りやら花火やらが余裕を持って満悦出来る時期に始まって、年々残暑のしつこさこそ増している感じがあるにせよ、心地好いくらいの気候になるまで好きな場所で好きな風に過ごしていられる。自由でいられる、ぬくぬくとした世界にいられる最後の一瞬だからか。
夏休みも残り僅かになった九月の中旬、ゆきは部活動のあとに晩餐会を企画した。
まだ日没を躊躇っている群青の空は、明るい白を残していた。一方で、繁華街は既に人が出てきていて、店々は客引きに狂奔していた。
「お姉さんお姉さん、ご飯まだ決まってないんでしたらウチの店どうぞー!美味しいですよ!」
「いらっしゃいませ!ただいま採れたて新鮮野菜、入荷してます。おっ、皆さんオシャレですね!サークルですか?」
「わぁ、綺麗なお姉さん!ふふっ、可愛いペット持ち込みオーケーですよ!」
「ぷ」
「やぁん、しより今、笑った!」
「ごめんごめん、だってペットだって」