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自由という欠落
第10章 貴女という補い

* * * * * * *

「しっかりして見えるでしょ」


 紬の担当のカウンセラーは、心陽を玄関まで見送る際、部屋の主には当然届くまい声音で耳打ちした。


「私の立場でこんなこと言ってはいけないんですけど、クライアントの中でも重症なんです。暮橋さんみたいな経験から日常生活が困難になった女性は珍しくないにしても、彼女の場合、私達の想像を絶する目に遭ったのね。暮橋さん、しばらく現実と非現実の狭間にいたようだった」

「どういうことですか」

「受け答えが支離滅裂だった、というんでしょうか。突然暴れ出したり、かと思えば死んだように塞いだり。手首を切って深夜の救急もよくあった、他には虚言癖の可能性も疑いました」

「素直で人当たりの良い人だったというのは、本当ですか」

「私はここでの彼女しか知らないから……。でも、貴女のように同世代の人が来てくれるようになって安心したわ。心を開いてくれるきっかけになれば良いんだけど……」

「心は、会う度に、却って閉ざされています」


 軒先に出た途端、冷凍庫に足を踏み入れでもした類の寒気が、心陽を襲った。そのくせ正午は二月でも黄金色の光が地上に注いで、パラソルは広げなければいけない。

 紬は部屋にこもっている。カウンセラーがいる時は、客の見送りも彼女の仕事になるらしい。陽子より七、八ほど歳上だろう、どちらにせよ若い女だ。なめらかな手指に、目尻に皺もないかんばせ。こんな女に、紬は救えまい。否、仮に紬の祖母ほどの女がいたとしてもだ。カウンセラーは、あの焼き印を知っているのか。


「あ、待って」


「え?」


 心陽は、女に自分が山本陽子の妹であることを話していた。紬に接触した目的も。山からの帰り、紬に自分がまひるの友人であることを打ち明けると、気丈な彼女が初めて涙をこぼしたことも話した。心陽としては、いっそのことまひるに会わせるべきかと思う。しかし紬が拒んだ。いつから不幸は、心陽を囲繞するようになったのか。


 それにしてもカウンセラーとは、クライアントの個人情報の保護に関して、こうも緩いものなのか。彼女は容易に口を開いた。力になれれば助かる、と、一言添えて。


「暮橋さんを襲った首謀者。万が一、彼女が昔、私に話してくれたことが事実なら、私は名前を知っています」
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