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自由という欠落
第10章 貴女という補い



「山本先生は、自己評価が低すぎます。差し出がましいのは承知で言わせて頂きます、山本先生みたいに熱心に仕事が出来たら、私なら鼻を高くします」

「そう?」

「ノリの良いだけの先生とか、熱いだけの先生より、真面目でこつこつとされる山本先生の仕事ぶり、私は見習いたいです。低カロリーで確実っていうか」

「…………」

「どのレベルの生徒でも理解出来るよう、噛み砕いた授業をされるでしょ。内容が毎年同じ、ノートを写して読んでるだけだと言う生徒の言葉なんて、気にしないで下さい。山本先生にとってベストな授業だから、そのスタイルを変えられないだけなんでしょう?だからって、出来る子達にも退屈させない。小テストの採点は、なるべくミスの原因を書き添えていらっしゃるの、私は知ってます」


 早く昼休みが終わらないものか。陽子は弁当をかき込んで、時計を見上げた。あと十分だ。


 内気な河合は内弁慶だった。話すほど饒舌になる。

 紬の件はクラスが原因だったのではない、むしろ陽子も偶然の不幸に立ち会ってしまった被害者だ。さように裏で陽子に同情している教師は少なくないと、河合は話した。そして現状、飛び抜けて評判の悪い教員らの名前を並べた。時代錯誤な固定概念を若手教師らにまで押しつけるだの、鼻につく癖があるだの、加齢臭が強いだの、小学生の世界であればいじめの類に入る根拠ばかりだ。

 飽きたのだ、と、思った。陽子を攻撃していた人間達は、五年という歳月を経て、陽子に飽きた。目新しい標的を見つけたのだ。人間の悪意の方角など、すぐに変わる。


「来月、離任式ですね。◯◯先生も、早くどっかに行けば良いのに」


 煙たい教員が一人や二人消えたところで、どうせ新たに煙たい教員が増えるだけではないか。


 陽子は、喉まで出かかった本音を飲み込んだ。
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