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自由という欠落
第10章 貴女という補い


 西原が指を引き抜くと、赤いものがこびりついていた。肉棒にしては細いそれが、のはなの味覚をこじ開ける。鉄の味が口に広がる。刹那顔を歪めたのはなに、西原は舐めろと低く命じた。利き手の全ての指を舐め尽くすと、西原はズボンと下着を下ろした。仰向けになった男のペニスは、のはなとは真逆の生理現象をきたしていた。まるで彼とは別個の生命であるように、股間に生える肉棒は、亀頭が天井を向いて憤っている。


「腰を下ろせ」

「え……」

「発情していたお前のために、わざわざ時間をとってやったんだ。不能で許されると思うなよ。根本まで咥えなければ痛い目に遭わせる」

「…………」



 西原は避妊具を所持していなかった。
 のはなが気を失う前、彼は入籍の時期を早める、と話していた。それまで彼が最低限の道徳を守っていたのは、のはなの卒業を待ったのち、籍を入れるつもりでいたからだ。待つつもりがなくなった今、避妊も不要なのだろう。

 裂けた肉襞が痛み出す。目の前で滾る肉棒は、白濁色の液体が横溢している。これを補翼にしなければ、のはなが踏ん張ったところで挿入もままならないだろう。
 濡れない。一握りの愛ばかりか情も湧かない男を相手に、身体が疼くはずがない。



「早くしろ!!」


「……失礼、しま……す……んんっ!」


 のはなは西原に跨って、巨大な生殖器を割れ目に含んだ。また新たに裂け目が生じた。痛みしかない。


「はぁっ、はぁ……」


 西原の精液が燃えるようにのはなを襲う。のはなの凹みと西原の凶器がすり合わさって、ぐちゅぐちゅと生々しい音を立てる。
 のはなは努めて快楽を装う声を上げて、腰を動かす。拷問具の壁に目路を逸らせば、西原でないものを受け入れている錯覚に逃避出来るのではないかと試みた。だが私欲を吐き出し続ける異物は、やはり西原以外の何でもなく、部屋の眺めそのものが、のはなの知る彼の世界に他ならない。
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