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自由という欠落
第10章 貴女という補い

 のはなの腹を、幾度となく熱が満たした。小刻みに顫える西原は、その度に僅かに脱力するが、腰を上げることを戒める。


「くっ…………あっ……ああ、良いぞ……ぉ、のはな……女はこうでなければな……!」

「んっ、ああっ、あんっ……ああっ……っ」

「そうだそうだ、余計な言葉は要らん!啼け!良いぞ…………だがもっと努力が必要だ、こんなことでは俺は飽きるぞ……」


 痛みや恐怖が麻痺したあと、濾過されるのは倦怠だ。

 のはなは、作業的なまぐわいに、何も感じなくなっていた。


 西原はスマートフォンをのはなの乳房めがけて投げた。彼の胸ポケットに忍んでいたそれは、のはながクローゼットの近くに手離してしまったきりのものだ。


「女に学は必要ない。友人もな」

「はぁっ、はぁ……」

「少なくとも俺の妻には、不要なものだ。女に余分なものを持たせると、本分の妨げになる。のはな、お前はもっと従順な娘だった……出逢った頃はな」


「あの、わた、私は……」



 …──お父さん。貴方の言葉が本物なら、私はこの人と別れたい。



 のはなの脳裏に、丹波の父親らしい顔が蘇る。現実には、どこかも判らない場所にいる。狂った男がのはなをさらった。従順な態度をとらなければ、結婚を早められるのであればまだしも、最悪、家にも帰れまい。
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