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自由という欠落
第3章 選べない貴女
心魂の抜けた空洞に似通う肉体を機能させて、移住食を過不及なく維持出来るだけの収入のための活動を営んでいる昼間か、最愛の女に黙って慚愧の行為に耽る場所に足を向ける日没か、どちらが人間的と言えるか。
LINEアプリを閉じた陽子は、自問した。
深刻な問題としてではない。感覚や感情が眠っている間か、陽子という存在が特定の少女を除いて人々の監視を逃れる時間か、どちらに生気があるか、何となしに気してみたくなったのだ。
昼間は黒髪をなおざりに束ねて、なるべく人目につかない格好をして、自然界に身を潜めるカメレオンを装っている。それが職場を脱するや、陽子は実家にいる装飾主義な妹の持ち物を参考にして、花のレリーフやらスワロフスキーやらのあしらってある化粧品を取り出して、目許や頬に彩りを添える。歯を磨き直したついでにリップグロスも。恋人には素顔ばかりか裸体の内部のすみずみまでさらけ出しているというのに、会って唇を重ねて作業的に結合するだけの少女との待ち合わせが迫った途端、グレーのジャケットを脱いで薄紫のスプリングコートを羽織り出す。
駅前に、一週間前と同様、少女は陽子を待っていた。
くすんだ桜色の長い髪に、強すぎない目鼻立ちの玲瓏な顔。それだけでも目立つのに、レースやリボンがふんだんに取り入れてあるベージュのブラウスにピンク色のワンピース、シフォンのフリルが胸元を飾るピンク色のブルゾンを、彼女はとり合わせている。
「お疲れ様です。この間のところでいいですか」
少女は陽子を褒めない。陽子も色気づいた身嗜みをしてくるのは、少女の称賛を得たいがためというのではない。