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自由という欠落
第2章 囚われの小鳥
友人と手を繋ぐなど、小学生時代以来かも知れない。思春期にそうした行為はしなかった。それが心陽の誘導につられて、のはなは六年ぶりの他人の手のひらを知ったのだ。少女の指のなめらかさを。
「おやすみなさい」
片手同士の結び目は、一瞬だった。一瞬だったが、指がほどける間のほんの刹那は、永遠を味わいたがっている風に名残惜しがっていた。
のはなが私室へ戻ると、友人らを座らせていたチェストは、未だ幻にも似た甘い匂いが染み込んでいるようだった。
一日を病床で費やしたにしても、春先は汗ばむ。化粧した顔もさっぱりさせたくて、のはなは入浴の準備を始めた。
夢のようなひとときだった。夢と呼べるものを見てはいけない、血の気も引く情景こそ夢であるはずなのに、今しがたまでの時間は何だったのだ。丹羽がのはなに引き合わせた目付役は、美しすぎた。そして、彼女との共通に出来た友人は、あまりに優しく明るくて。
「…………」
炫耀に眩暈を覚えたのはなの耳を、ノックの音が萎縮させた。
「どなた」
「こんばんは、のはな」
「…………っ」
何故、この声が今夜、ここに。
のはなが許可を出すのも待たず、扉が開いた。
縦枠に肘をついていたのは、目の笑っていない長身の男。今年で三十歳に至る男は、初対面だった時に比べて、溌剌とした青年らしさをなくしていた。
第2章 囚われの小鳥〈完〉