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自由という欠落
第10章 貴女という補い
ああ、佳乃は、こうしていつでも陽子の望んでいるものをくれる。もしやいつかの、まひるとの関係さえ実のところ知っているのではないか。仮にこの先、知れたとしても、佳乃は陽子を見捨てまい。ふと陽子に、さすがに非人道的と思えるような、甘えた感情が沸き起こる。
佳乃が好きだ。教師として日向を追いやられて、女としても自暴自棄になった日々。それでも佳乃と惰性で続いていたのは、陽子が彼女を選んでいたからだ。惰性であって、不可欠だった。彼女を愛しきれないと強がりながら、隣にいて当たり前だった。気まぐれな佳乃が陽子も好きだ。
嘘は一概に悪と限らない。相手のためになる嘘も存在する。
いずれ地獄に堕ちたとしても、修正の利かない人生だ。転生など夢物語で、陽子には佳乃しかいない。来世の彼女とやり直すなど、非科学的だ。であれば陽子は秘密を貫いてでも、今、欲しいものを手に入れる。罪の代わりに、佳乃をめいっぱい愛する。残りの何十年という歳月は、間違っても彼女を裏切らない。
「有り難う、佳乃」
陽子は佳乃の双眸が訴えるもののこもったような石を撫でて、彼女に微笑む。自ずと唇の端がたゆむ。
「こんな私で良ければ、お世話になります。これからも宜しくね」
「陽子……!」
「愛してる」
佳乃の疑いのない笑顔に目が眩む思いがしながら、陽子はとりとめなく考える。
結婚になど興味なかった。同棲も考えたことはなかった。従って婚約指輪を贈られた場合、その先の返礼に関してよく知らない。もちろんダイヤモンドを買える甲斐性はない。それでも、佳乃の喜ぶことがしたい。
陽子が佳乃に何か欲しいものはないかと問うと、案の定、飄々と我が道を行く教育者は、「陽子が欲しいから指輪を贈ったんだよ」と言って笑った。卒業式のあとにでも、心陽達を捕まえて、相談するしかないようだ。
自由という欠落──完──