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自由という欠落
第4章 彩りのうたかた
一人は、サブカルチャー女子の好む類の雑誌のモデルに見られがちな特徴を備えていた。くすんだ桜色の長い髪を二つに結んで、くっきりとした目鼻立ちの顔には薄化粧。澄んだ瞳に通った鼻梁、いっそ凛々しくもある顔かたちなのに、どこか儚げな危うさがある。白と赤のパンクスタイルが様になっている。
そして、もう一人。心陽が数分興味を惹かれていた声の主だ。本当にこの世の人間かと疑った。天衣無縫とは、まさしく今、心陽の目前に現れた少女を形容するために存在してきた言葉なのだと確信が持てたくらいだ。生まれてこのかた化学的な干渉とは無縁だったろう黒檀のような黒髪に、濡れた睫毛の下に煌めく天然石。ほんのり桃色を刷いた白い頰。果てなく柔和で気品があって、それでいて堅苦しい人間界などものともしない、彼女は、極端に言えば妖精界から迷い込んできたと説明されても信じる雰囲気をまとっていた。心陽をさんざっぱら褒めておいて、彼女こそ◯◯の洋服がこよなく似合う。
一目惚れだった。
天使の羽をモチーフにした丸襟ブラウスに、裾がリボンで一周してあるサックスのジャンパースカートを見事に着こなしていた少女は、名前を丹羽のはなといった。
花のような声に胸が迫ったのではない。あの声が紡ぎ出す彼女の精神の断片に、心陽は、引き寄せられるようにして興味をいだいたのだ。
相手の表層を知っただけで好意を寄せた片想いなど、恋に恋しているだけだ。一目惚れなど禁忌と戒めてきた心陽は、実際、そうした相手と出逢わなかった。だのに、長らく別個になっていた型と中身がぴったりと填まる風にして、心陽はのはなに出逢ってしまった。