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自由という欠落
第4章 彩りのうたかた
そうした初恋話を姉の恋人に提供する機会のあった心陽は、現在、彼女のアトリエで知り合って日の浅い同級生にまつわる惚気を披露していた。
アトリエとは、つまり彼女の私宅だ。陽子と同じ職業なのに、この佳乃は寝食している空間まで常人らしからぬものがある。婉曲の壁に、マンションの一室には珍しい半上階へ繋がる階段。天蓋から垂れた布を開くと寝床だ。オープンキッチンからはカラフルなソファとガラステーブルの並ぶリビングが見渡せて、遮光カーテンを開くと一面のガラス張りから夜の街が広がっている。そして、絵画や植物の飾ってあるウォールシェルフが配置された仕切りの内側に、彼女の作業場が隠れているのだ。
佳乃自身も、姉に比べて何にも拘束されない気性がある。
「素敵ね。それじゃ、早く告白しないと」
「まだ二週間も一緒にいない。軽いって思われちゃう」
「軽くて結構。一目惚れって大事だよ。私が陽子に惚れたのも、そういう感じだったし。それで今のこの仲だよ。深いでしょ」
「うん、……それは」
陽子に恋人が出来た時期と、佳乃が彼女の職場に入った時期。確かに、さして離れてはいなかった。
「はい」
心陽がたゆたっていると、佳乃の手が伸びてきた。手のひらに、紙らしきものが入り込んできた。
「乗車券?」
「ゴールデンウィークね、陽子と高原に行くの。部屋を多めに予約してしまったから、心陽ちゃん達も来て」
「香菜達、予定空いてるかどうか……」
「のはなちゃん達を誘えば良いの」
「ますます空いてるか分からない」
「当たって砕けろ」
砕けたらやけ食いでも何でも付き合うから、と、佳乃はかすみ草柄のロングスカートを揺らして元いた椅子に腰かけた。