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人工快楽
第2章 真央と香苗
 それから後は、自分でも驚くほどに医師や看護師に対して抵抗も見せなかった。

 その為か薬で眠らされることも安定剤を打たれることもなく、女性看護師が30分に一回巡回に来るだけだった。

 看護師が来るたびに、喉が渇いたからお水か貴女のおしっこを飲ませてと言い続けてみた。

 何やら喚き立てる女、私の言う事など精神異常者の戯言と聞き流す女、色々だった。

 ただ、すっかり醒めた頭で思うのは、わたしはこの状況において、可笑しいくらいに第三者だということでしかなかった。
 
 彼らは聞かされていないのだろうか。

 霧島家がどういう家庭なのかを。

 ただ娘が母親とコミュニケーションを取っただけでこの騒ぎだ。

 私たち母娘にとって、愛情とは性の欲情によってなる穢しそのものなのに。

 なんで分かってもらえないんだろう。

 先ほど巡回に来ていた女が、医師らしき男を連れて戻って来た。

 わたしに向って何か言っているようだけれど、狂騒劇のクライマックスを、音声のないままにスローモーションで見ているかのように、わたしは白け切った眼で二人を眺めていた。

 そして、ふと思った。

 ああ、わたしはやっぱりお母様の娘なんだな、と。

 それは漠然としながらも明確な答えだった。

 この騒ぎの中で、わたし達母娘だけが彼らと隔たっているのが何よりの証だ。

 自我が芽生える以前より、それは精子と卵子が結合して魂が発生した瞬間かもしれない。

 純然たる性の欲情のみが本能でわたし達を形作っていた。

 性の快楽に基づいた感情や行動こそがわたし達の道徳であり倫理だった。

 宗教的価値観に根ざした一般論においての彼らの道徳や倫理とは決定的に対極のもの。

 自分の身に置き換えて想像できないものは理解出来ないんだ。

 そうか。

 だから、彼らには私を理解出来ないし、わたし達には彼らを理解出来ない。

 どれほど言葉を尽くそうとも、彼らにしてみればわたしやお母様なんてただの気狂いにしか見えないし、思えないのでしょうね。

 可哀想に。
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