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人工快楽
第3章 香苗喪失
いつまで待ってみてもお母様の声は聞こえて来ない。
わたしは震えていた。
部屋の空調が低いせいでもない。
お母様を冷やしている保冷剤のせいでもない。
予め理解している現実。
そこに横たわる絶対的な虚無。
認めたくない現実。
心臓の鼓動が聞こえる。
お母様のものではない。
わたし自身の音。
早く、強く。
呼吸が速くなる。
胸を突き破りそうに締め付けられた心臓が悲鳴を上げている。
吐き出してしまいそうな内臓が行き場をなくして足掻いている。
「お母様⋯⋯」
覚悟なんて出来ないまま、わたしはゆっくりと顔を上げた。
「⋯⋯⋯⋯」
その穏やかな横顔は、あの隔離病棟で見た寝顔とは全く別の異質なものだった。
今わたしは現実を見つめている。
母親の死という現実を。
あれ程ざわついていた体内が一瞬にして静まり返った。
「お母様、本当に死んでしまっているのですね⋯⋯」
わたしは、まだ力の入らない自分の身体を無理矢理におこして、横たわるお母様を見下ろした。
「お母様は本当に綺麗です⋯⋯」
久しぶりにみるお母様は、透き通るような白い肌が青白く透明さを増して、まるでガラス細工のお人形のように美しかった。
「あのね、わたしね、お母様が死んじゃったって聞いて、最後にもう一度お母様とセックスしたいって思っていました⋯⋯でも⋯⋯」
わたしは、お母様を犯したかった。
それがわたし達親子のコミュニケーションだったからだ。
お互いの身体を貪り快楽を与え合い、言葉ではなく嬌声と肉体で会話を交わす。
世間一般の家庭では知り得ない本能による親子の繋がりは、誰にも理解されなくともわたしとお母様にとっては何者にも代えがたい幸せだった。
だからこそ、最後もわたし達親子らしくしようと思っていた。
擾乱の荒れ狂う性の穢れの中でこそお母様に相応しいのだと。
でも、お母様の顔を見ていたら、わたしはこれ以上お母様を穢すことが出来ないと悟ってしまっていた。
それはお母様が死体となってしまったからでも、神聖性を感じたというものでもない。
わたしは震えていた。
部屋の空調が低いせいでもない。
お母様を冷やしている保冷剤のせいでもない。
予め理解している現実。
そこに横たわる絶対的な虚無。
認めたくない現実。
心臓の鼓動が聞こえる。
お母様のものではない。
わたし自身の音。
早く、強く。
呼吸が速くなる。
胸を突き破りそうに締め付けられた心臓が悲鳴を上げている。
吐き出してしまいそうな内臓が行き場をなくして足掻いている。
「お母様⋯⋯」
覚悟なんて出来ないまま、わたしはゆっくりと顔を上げた。
「⋯⋯⋯⋯」
その穏やかな横顔は、あの隔離病棟で見た寝顔とは全く別の異質なものだった。
今わたしは現実を見つめている。
母親の死という現実を。
あれ程ざわついていた体内が一瞬にして静まり返った。
「お母様、本当に死んでしまっているのですね⋯⋯」
わたしは、まだ力の入らない自分の身体を無理矢理におこして、横たわるお母様を見下ろした。
「お母様は本当に綺麗です⋯⋯」
久しぶりにみるお母様は、透き通るような白い肌が青白く透明さを増して、まるでガラス細工のお人形のように美しかった。
「あのね、わたしね、お母様が死んじゃったって聞いて、最後にもう一度お母様とセックスしたいって思っていました⋯⋯でも⋯⋯」
わたしは、お母様を犯したかった。
それがわたし達親子のコミュニケーションだったからだ。
お互いの身体を貪り快楽を与え合い、言葉ではなく嬌声と肉体で会話を交わす。
世間一般の家庭では知り得ない本能による親子の繋がりは、誰にも理解されなくともわたしとお母様にとっては何者にも代えがたい幸せだった。
だからこそ、最後もわたし達親子らしくしようと思っていた。
擾乱の荒れ狂う性の穢れの中でこそお母様に相応しいのだと。
でも、お母様の顔を見ていたら、わたしはこれ以上お母様を穢すことが出来ないと悟ってしまっていた。
それはお母様が死体となってしまったからでも、神聖性を感じたというものでもない。