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人工快楽
第3章 香苗喪失
 隔離病棟で穏やかに眠るお母様を見た時に感じた腹立たしさは、その時にはまだ確かにお母様にあった擾乱の海のような性の穢れの荒々しさが押さえ込まれてしまっていた状況に対してだった。

 今目の前で横たわる穏やかさは、あの時とは全く違う。

 その違いは、わたし自身に自分の気付きが正しかったことを再確認してさせてしまう。

「凪いでしまったんですね⋯⋯」

 お母様の中に常に存在した擾乱。

 止むことなく吹き荒れた性の穢れ。

 身に受ける被虐の限りを喰らい尽くし、わたしを快楽享受のために排泄し、被虐快楽の深淵に立ち続けた女性。

 その暴力的なまでの嵐は、今、お母様のどこにも無い。

 ただただ穏やさだけがここにある。

 わたしが愛して止まない狂乱は、もうどこにも無い。

「これから真央はどうすれば良いんですか⋯⋯」

 わたしはおもむろにお母様の着ているワンピースの前ボタンを外し、裸体を露わにさせた。

 下着は付けられていない。

 小振りな胸の膨らみとスラリとした肢体。

 その身体には今までの被虐で負った傷跡が刻まれている。

 普通の人なら目を覆いたくなるような傷もあるが、わたしはその全てが愛しかった。

 それは痛々しさではなく、お母様にとって快楽の証だったのだから。

「綺麗ですよ、お母様」

 お母様の顔を覗き込み、眼に巻かれている包帯を外してあげた。

 眼球が切除されているために閉じた瞼が窪んでいる。

 わたしはその瞼に指をそっと添えて、優しく撫ぜていた。

「お母様が好きだった眼球をとっちゃうなんて、酷いことされましたよね。辛かったですよね」

 だから、諦めてしまったのですか、お母様。

「お母様、真央にキスさせて下さいね」

 わたしは窪んだ左の瞼に、今までお母様にしたこともされたことも無い優しい口づけをした。

 唾液に塗れることのない、唇が皮膚に触れるだけのキス。

 温もりはなかったけれど、とても冷たかったけれど、それでもお母様には違いなかった。

 たまらなく愛おしくなったわたしは、そのままお母様の唇に口づけをした。

「お母様、お母様、お母様ぁ」

 唇から首筋へと唇を這わせ、鎖骨から乳房、お腹から恥丘、性器へ滑らせてゆく。
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