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道化師は啼かない
第2章 少女の秘密
金属音が響いて、電車が速度を落とす。
私は首を伸ばして駅名を確認する。
扉が開き、一人の女子高生が入って私の座席の対極に座る。
短くしたスカートを履いて、見せるように脚を組んで。
「でも、なに?」
小声で続きを促すが、道化は返事をしない。
瞬きもせずに、目の前の女を見ている。
タブレットを指で弄り、派手な鞄を空いている座席に置く女を。
またなの。
そんな叫びが聞こえてくる。
ううん、予感はしていたのよ。
たぶん、この時間のこの電車だって。
ドクドクと鼓膜に血の音が響く。
こめかみを押さえて平静を取り戻そうとするが、彼女は動揺するばかり。
「どうしたの」
「麗奈。今すぐ……違う。あの子に気づかれないように車両を替えて」
「なんで」
「いいから、早く」
対岸の女子高生を盗み見る。
その瞬間、彼女の周りに紫の煙が見えた。
躰に触れたところから濃くなり、五つに分かれた先端が首に纏わりつく。
蛇が獲物を締め上げるように。
ゆっくり、確かに。
背筋が冷たくなる。
指だ。
紫の手が、彼女の首を締めようとしている。
ざわりと寒気がした。
これは道化の視点なんだろうか。
すっと、つけ睫毛に隠れた眼が向いて会釈した。
この煙なんて全く目に入っていないように。
私は応えずに立ち上がった。
否、彼女がそうしたのだ。
躰を無理に動かして。
隣の車両に入るや、すぐに扉の近くに座る。
「あれ、なに?」
この六年間、見たことなかったもの。
まだ首筋がぞくぞくしている。
マスクを付け直すふりをして首を摩る。
「ねえ、麗奈。人が死ぬとこ見たことある?」
どうしたというんだ。
あまりに脈絡のない発言の連続に戸惑う。
「ないに決まってるでしょ」
「……でしょうね」
冷笑と、己への嘲笑が混ざる語調。
「隠さないで教えて。今日、なにがしたいの?」
走り出した電車の振動に立っていた少年がふらつく。
それを一瞥してから、毒づく。
「私だって意味もなく指示されるのは嫌なんですよー」
「わかってる」
腿に置いた手が震えている。
怯えが伝わってくる。
「あんたに入る前に、二人の子にこうして会ったわ。憑いた、が正しい? わかんないけど」
半笑いで。
「……会いたい男がいてね」
窓の外で流れる景色に道化が映る。
私をじっと見つめて。
私は首を伸ばして駅名を確認する。
扉が開き、一人の女子高生が入って私の座席の対極に座る。
短くしたスカートを履いて、見せるように脚を組んで。
「でも、なに?」
小声で続きを促すが、道化は返事をしない。
瞬きもせずに、目の前の女を見ている。
タブレットを指で弄り、派手な鞄を空いている座席に置く女を。
またなの。
そんな叫びが聞こえてくる。
ううん、予感はしていたのよ。
たぶん、この時間のこの電車だって。
ドクドクと鼓膜に血の音が響く。
こめかみを押さえて平静を取り戻そうとするが、彼女は動揺するばかり。
「どうしたの」
「麗奈。今すぐ……違う。あの子に気づかれないように車両を替えて」
「なんで」
「いいから、早く」
対岸の女子高生を盗み見る。
その瞬間、彼女の周りに紫の煙が見えた。
躰に触れたところから濃くなり、五つに分かれた先端が首に纏わりつく。
蛇が獲物を締め上げるように。
ゆっくり、確かに。
背筋が冷たくなる。
指だ。
紫の手が、彼女の首を締めようとしている。
ざわりと寒気がした。
これは道化の視点なんだろうか。
すっと、つけ睫毛に隠れた眼が向いて会釈した。
この煙なんて全く目に入っていないように。
私は応えずに立ち上がった。
否、彼女がそうしたのだ。
躰を無理に動かして。
隣の車両に入るや、すぐに扉の近くに座る。
「あれ、なに?」
この六年間、見たことなかったもの。
まだ首筋がぞくぞくしている。
マスクを付け直すふりをして首を摩る。
「ねえ、麗奈。人が死ぬとこ見たことある?」
どうしたというんだ。
あまりに脈絡のない発言の連続に戸惑う。
「ないに決まってるでしょ」
「……でしょうね」
冷笑と、己への嘲笑が混ざる語調。
「隠さないで教えて。今日、なにがしたいの?」
走り出した電車の振動に立っていた少年がふらつく。
それを一瞥してから、毒づく。
「私だって意味もなく指示されるのは嫌なんですよー」
「わかってる」
腿に置いた手が震えている。
怯えが伝わってくる。
「あんたに入る前に、二人の子にこうして会ったわ。憑いた、が正しい? わかんないけど」
半笑いで。
「……会いたい男がいてね」
窓の外で流れる景色に道化が映る。
私をじっと見つめて。