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道化師は啼かない
第8章 それぞれの終幕
「ねえ、ハルの友人さん……私を殺してくれない?」
胡桃は涙声で懇願した。
けれど、直輝はあっさりと却下する。
「は? やだよ。オレの専門外だし」
「あら……それは……っ、残念……ね」
「姉さんみたいな美人は結構マニアな人たち多いから頼んでやろうか? もしくは死なせ屋って手段も……あ、いや。それよりもあの」
「もういいわよっ。馬鹿ね」
「ああ!?」
あの夜ビルに帰ってきたハルは出迎えた直輝の胸元に倒れた。
辛うじて地面に激突する前に支えた直輝が戸惑いながら尋ねる。
「お、おい……? どした」
服は雨に濡れ、触れた肌は高熱を持っていた。
微弱な息はあまりに彼らしくない。
「ハル?」
白い手で直輝の首に縋りつく。
真っすぐに見つめてくる紫の瞳に生唾を飲む。
今のハルは、すぐに壊れてしまいそうなほど脆く見えた。
ずっと彼を支えてきた柱が折れてしまったかのように。
捨てられて震える仔猫のように。
絶望に滲んだ瞳。
「なにが、あった?」
弱弱しく瞬きをして、ふっと視線を逸らす。
長い睫毛に目が惹きつけられる。
間近で見た白さに唇だけが際立つ。
濡れたシャツはその肢体の輪郭を浮き上がらせる。
細く、無駄のない肉体を。
直輝は自分を抑えるのに一杯一杯だった。
そもそも今夜はこの久谷ハルを焦らせてやろうと色々襲う準備をしていたのだ。
自制心がいつもより格段に低い。
だから、この一言を聞いて抗うなんて不可能だった。
耳元に唇を近付け軽く甘咬みして、囁くように。
「……僕を殺して」
長椅子の上で白い肌を露出し喘ぐハルは、どこか違うところにいるようだった。
直輝は求められて抱くことは滅多にしない。
だから、どこか不安を感じながら彼を抱いた。
どんなに強く咬みついてもこの男に自分という存在が残ることはないんじゃないかと理由もなく思った。
それでも無数のキスマークを落として。
きっと今ワイヤーで首を断っても、彼を殺したという感覚を得ることはない。
どこかで彼がアリスと称するターゲットが羨ましく思った。
彼女らは少なくとも、この男に求められていたのだから。
今の自分がずいぶん惨めだな。
この男が失った者の代わりになるものになんて決してなれないだろう。
いるんだろうか。
全く。
やばい奴に惚れてしまったものだ。
胡桃は涙声で懇願した。
けれど、直輝はあっさりと却下する。
「は? やだよ。オレの専門外だし」
「あら……それは……っ、残念……ね」
「姉さんみたいな美人は結構マニアな人たち多いから頼んでやろうか? もしくは死なせ屋って手段も……あ、いや。それよりもあの」
「もういいわよっ。馬鹿ね」
「ああ!?」
あの夜ビルに帰ってきたハルは出迎えた直輝の胸元に倒れた。
辛うじて地面に激突する前に支えた直輝が戸惑いながら尋ねる。
「お、おい……? どした」
服は雨に濡れ、触れた肌は高熱を持っていた。
微弱な息はあまりに彼らしくない。
「ハル?」
白い手で直輝の首に縋りつく。
真っすぐに見つめてくる紫の瞳に生唾を飲む。
今のハルは、すぐに壊れてしまいそうなほど脆く見えた。
ずっと彼を支えてきた柱が折れてしまったかのように。
捨てられて震える仔猫のように。
絶望に滲んだ瞳。
「なにが、あった?」
弱弱しく瞬きをして、ふっと視線を逸らす。
長い睫毛に目が惹きつけられる。
間近で見た白さに唇だけが際立つ。
濡れたシャツはその肢体の輪郭を浮き上がらせる。
細く、無駄のない肉体を。
直輝は自分を抑えるのに一杯一杯だった。
そもそも今夜はこの久谷ハルを焦らせてやろうと色々襲う準備をしていたのだ。
自制心がいつもより格段に低い。
だから、この一言を聞いて抗うなんて不可能だった。
耳元に唇を近付け軽く甘咬みして、囁くように。
「……僕を殺して」
長椅子の上で白い肌を露出し喘ぐハルは、どこか違うところにいるようだった。
直輝は求められて抱くことは滅多にしない。
だから、どこか不安を感じながら彼を抱いた。
どんなに強く咬みついてもこの男に自分という存在が残ることはないんじゃないかと理由もなく思った。
それでも無数のキスマークを落として。
きっと今ワイヤーで首を断っても、彼を殺したという感覚を得ることはない。
どこかで彼がアリスと称するターゲットが羨ましく思った。
彼女らは少なくとも、この男に求められていたのだから。
今の自分がずいぶん惨めだな。
この男が失った者の代わりになるものになんて決してなれないだろう。
いるんだろうか。
全く。
やばい奴に惚れてしまったものだ。