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道化師は啼かない
第8章 それぞれの終幕
 天井にくくりつけた縄。
 そこからぶら下がるめくちゃんをハルと二人で見上げた。
 どこか、そんな気はしていた。
 そう言ったら嘘になるかもしれない。
 けど、子供二人に見つかって全てを曝し、その眼で娘の二度目の死を見たイスズが逃げて生きるようには思えなかった。
 これは捕まったら終わりの鬼ごっこだったんだ。
「そうかもしれないね」
 ナンセンスだと一蹴されるかと思ったら、意外にもハルは穏やかにそう答えた。
「鬼は誰だったんだろう」
 独り言のように。
 二人で階段を降りながら私は不意に口をついて言ってしまった。
「鬼はわかりませんが、道化は確かにマキさんでしたよ。それだけは事実です。六年間、彼女は私にとっての道化師でした」
「道化師は啼かない、か」
「え?」
「サーカスでピエロを見たことはある? 彼らは必ずと云って良いほど涙のメイクをしている。これは受け売りだけどね、ピエロは決して泣けないんだ。観客を笑わせる剽軽な愚か者だからね。だから泣くことに憧れてメイクをする。そして道化師は多くを語らない。感情を露わにしない。特に悲しみはね。だから道化師は泣かないし啼かない。そう云われているんだ」
「仮面の下ではどうでしょうね」
 ハルが足を止める。
 降りきった所から私を見上げた。
「どうでしょうね」
 もう一度問う。
 ハルは黙って目線を揺らした。
 訊いてはならなかったのかもしれない。
 けど私は知っていたから。
 道化師は泣くし啼く。
 マキはそんな人だった。
 時には喧しくもなる。
 そんな人だった。
 人をおちょくるけど優しさを知っている。
 そんな……そんな人だった。
 ハルさん知っていますか。
 甘党だってこと。
 時間に厳しいこと。
 毒舌なこと。
 脅しが上手いこと。
 照れると可愛いこと。
 猫舌なこと。
 いくつだって出てくる。
 カツンカツン。
 足音を聞きながら過去が甦る。
 六年前に鏡の中からの罵倒から始まった。
 久谷イスズは甘いと笑ったけど、私が成長するのを待ってくれた。
 家族以上の存在だった。
 辛い過去を語らずに、楽しい今を自覚させてくれる存在だった。
 ハルさん。
 貴方がすごく羨ましい。
 マキと歩いたのでしょう。
 一緒に。
 私はそれが叶わなかった。
 マキの本当の姿を知らない。
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