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道化師は啼かない
第8章 それぞれの終幕
 買い物したり、テーブルを挟んで喋ったり、ベッドに寝転んでゲームしたり、並んで登校したりさ。
 料理をしたり、勉強教えあったり、行事を二人で回ったり、プリクラ撮ったり。
 私は貴方としたかった。
 隣に立ちたかった。
 ねえ。
 まだなんのお礼も言ってないよ。
 まだなんもしていないよ私たち。
 道化。
 心に穴がなんてもんじゃないよ。
 半身が消えてしまった。
「麗奈さん?」
 はっとする。
 弟のハルは?
 私よりずっとずっと……
 シャッターを上げて待っているハルの元に駆け寄る。
 出た瞬間に轟音を立てて鉄扉が閉まった。
 埃が舞う。
 あ。
 紫。
 夕陽が紫に染まっていた。
「綺麗……」
「そうですね」
 ハルはなにか思い出したように振り返った。
「どうしました?」
「ふ……メガネを中に忘れてしまいました。けど構いません」
 そのままじっと見つめられる。
 夕陽よりも深い紫に。
 頬に手がかかる。
 白くて冷たい指。
 私は自分の暖かい手を上から重ねた。
 二つの温度が溶け合う。
 互いの亡くしたものを補うように。

「私たちは埋め合うことが出来ますか」

 ハルは答えずに長いキスをした。
 熱い舌を絡ませながら、私はもう二度と彼に会うことはないだろうと悟った。
 この唇が告げている。
 私はマキじゃない。
 マキの代わりになんてなれない。
 ハルはもう泣くことは無いだろう。
 マキの前で見せたあの一筋の涙が最初で最後。
 道化師は二人を指していたんだ。
 私はそう自分を納得させた。
 ハル。
 空中ブランコのおいかけっこは一人じゃ出来やしない。
 これからどうするの。
 貴方の息からは絶望しか感じられない。
 ねえ。
「……すみませんでした」
 身を離してハルはそう呟くと、私の知らない世界に去っていった。
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