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道化師は啼かない
第8章 それぞれの終幕
 家に着いたのはもう真っ暗になってからだった。
 電気を点けると、布で覆われた鏡が目に飛び込んできた。
 それを外そうと摘まんで、息が止まる。
 怖かった。
 これを開けて、道化がそこに居なかったら。
 私は耐えられるんだろうか。
 膝がガクンと折れて腰を突いた。
 その勢いで指先から布が落ちる。
 パサリ。
 床に塊となったそれの向こうに私がいた。
 真っ赤な顔して。
 泣き腫らした跡を隠しもせず。
「ひどい顔ね……」
 右手をそっと鏡面に付ける。
「ね? 道化……私って本当に馬鹿よね。こんな顔で帰ってたなんて恥ずかし……い」
 あーあー。
 もっとひどい顔になっちゃった。
 そんな泣いちゃって。
 無理して心の中でだけは強がってみる。
 けど、ダメ。
 ダメだよ、道化。
 貴方がいないと、私生きてけないよ。
 ねえ。
 聞いてる?
「返事しなさいよっ」
 ダンと拳で殴った鏡にヒビが走る。
 ほら。
 また道化が怒ってくれる。
 割れた所に掌を押し付ける。
 前の傷痕に。
 ヒリヒリと痛みが駆け抜け、鏡に紅い血が伝っていく。

 無音がこんなに怖いなんて。

 これが普通だなんて嘘だ。
 耐えられるはずがない。
 どうしてこの沈黙を許せよう。
「うく……ぐっ、うう……ひっく」
ー六年間あんたと過ごせて楽しかったよー
「そう言うことはちゃんと顔見て云ってよぉ……ばかぁ……狡いよ、自分だけ」
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