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道化師は啼かない
第8章 それぞれの終幕

 泣いてんじゃないわよ、ばか。
 そんな声が聞こえるようだった。
 鏡に頭を付けて泣く。
「大好きだったよ道化……死ねとか消えろとか言ってごめんねえ……私には貴方が必要だったよ。今までありがとうね……六年間ありがとうね……あの、テストのときもさあ、ダメ元で頼んだら受けてくれたじゃん。私いまだにあの数学の範囲ワケわかんないもん。このあとどうしたらいいのよ。みんみんに逆に頭おかしくなったんじゃないって言われたんだよ……ははは、あとほら、さあ。体育の駅伝も貴方の方が脚早かったよね……ばっちゃんがびっくりしてたもん……そうだ。のべっちとばっちゃんが結婚するかどうか賭けやってたでしょう? あれどうやって……結果教えればいいのよ~……それに合ってた方が何でも一つゆうこと聞くって、天国でやるのそれえ……道化……ねえ、天国で続きやるんでしょうね。あとあれだよ。貴方私のセンスぼろくそ言ってたけどさあ、私クラスじゃ流行先端組だったんだよ……知らなかったでしょ。貴方が観たがってた映画明日公開ってのも忘れてるよね……」
 ちがう。
 ちがうよ。
 こんなくだんないこと話したいんじゃないんだよ。
 でも今更どんどん出てくるんだ。
 こんなにも話足りなかったんだね。
 私たち。
 二十四時間一緒にいたって言うのに。
 馬鹿よね。
 鼻を啜る。
 鏡をちゃんと見る。
 涙を拭って、目を合わせる。
 にっと笑って見せた。
 あ……
 そっか。

 久しぶりに……自分の笑顔見た。

 六年ぶりに。
「私は一人で生きてけるよ。そこから見ててね、道化。ありがとう、たくさん」
 鏡にお辞儀をする。
 それから大きく息を吸い込んだ。
 ちゃんと言うために。
 鏡の中から自分が見つめてる。
 大丈夫。
 言えるから。
 道化。
 マキ。
 親友。
 家族。
 私。

「ばいばい。天国で会おうね」
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