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道化師は啼かない
第8章 それぞれの終幕
眼を開ける。
雑踏から抜けて、やっと目隠しを解くように。
すぐに眼球を襲う初夏の熱気。
眉間を指で撫で、提げた鞄の重みを確認するように揺らしながら歩き出す。
焼けつくコンクリートが反射する熱がチリチリと肌を舐める。
胸ポケットの中のタブレットが震える。
取り出して、慣れた口調で応対する。
「ええ、はい。わかりました。二時にですね。はい、ああ。あの件は済みましたから」
サラリーマンの歩く道に同化するような、黒スーツの男。
電話を切ってから、彼はコツコツと革靴を鳴らして道を逸れた。
薄暗い路地を進む。
もうイヤホンは持ち歩いていなかった。
コンタクトに変えた瞳はブラウンに染めて。
変わらないのはその黒髪くらいだろうか。
久谷ハルは腕時計を確認して微笑んだ。
「あと二分ですね」
向こう側からブランドもののバッグを魅せるように揺らしながら女性が歩いてくる。
時間通り。
いいね。
ハルは不敵に笑んで彼女に近づいた。
倒れた遺体を処理し終えてハンカチを取り出したとき、視界の端でこちらを窺う視線を捕らえた。
音もなく近づきその主を引きずり込む。
「ひゃっ、すみません!」
亜麻色のロングヘアーの少女。
ワンピースとサンダル。
まだ高校一年てところかな。
「そのっ、なにも見てませんから」
「なにも訊いてないけど」
「あっ、う……」
一瞬でも似てると感じた自分を嘲笑う。
お前は久谷ハルだろう。
女性殺しの久谷ハルだろう。
怯える少女の頭をぽんと撫でて顔を近づけ囁く。
「折角だから……生かしてあげる。ボロボロにはしちゃうけどね。加減できないから、僕」
目撃者は消せって貴女は云った。
半分だけ従っている。
二年経った今でも。
雑踏から抜けて、やっと目隠しを解くように。
すぐに眼球を襲う初夏の熱気。
眉間を指で撫で、提げた鞄の重みを確認するように揺らしながら歩き出す。
焼けつくコンクリートが反射する熱がチリチリと肌を舐める。
胸ポケットの中のタブレットが震える。
取り出して、慣れた口調で応対する。
「ええ、はい。わかりました。二時にですね。はい、ああ。あの件は済みましたから」
サラリーマンの歩く道に同化するような、黒スーツの男。
電話を切ってから、彼はコツコツと革靴を鳴らして道を逸れた。
薄暗い路地を進む。
もうイヤホンは持ち歩いていなかった。
コンタクトに変えた瞳はブラウンに染めて。
変わらないのはその黒髪くらいだろうか。
久谷ハルは腕時計を確認して微笑んだ。
「あと二分ですね」
向こう側からブランドもののバッグを魅せるように揺らしながら女性が歩いてくる。
時間通り。
いいね。
ハルは不敵に笑んで彼女に近づいた。
倒れた遺体を処理し終えてハンカチを取り出したとき、視界の端でこちらを窺う視線を捕らえた。
音もなく近づきその主を引きずり込む。
「ひゃっ、すみません!」
亜麻色のロングヘアーの少女。
ワンピースとサンダル。
まだ高校一年てところかな。
「そのっ、なにも見てませんから」
「なにも訊いてないけど」
「あっ、う……」
一瞬でも似てると感じた自分を嘲笑う。
お前は久谷ハルだろう。
女性殺しの久谷ハルだろう。
怯える少女の頭をぽんと撫でて顔を近づけ囁く。
「折角だから……生かしてあげる。ボロボロにはしちゃうけどね。加減できないから、僕」
目撃者は消せって貴女は云った。
半分だけ従っている。
二年経った今でも。