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道化師は啼かない
第8章 それぞれの終幕
 ハルは蕗から呼び出されて千葉の人気の無い岬に来ていた。
 風が強く、眼鏡を押さえ直す。
 シャツのボタンを一つ外し、堤防に上がる。
 海。
 一面の蒼。
 この音は不思議だ。
 呼吸のように体に馴染む。
「ハル、待たせてごめんね」
 答えようとしてハルは固まった。
 蕗の髪が真っ黒に染まっていたから。
「……イメチェン?」
「ん~。ボクなりの喪服代わりかな。慣れないけどさ」
 髪先を摘まんではにかむ。
「誰のための?」
 蕗は静かに首を傾げた。
 それから腕を伸ばして柔軟をする。
「ん~……っく。はあっ。ハルはわかっているんじゃないの? その眼で見たんじゃないの、そう彼女は言ってたけど」
 ハルは瞬きをして、蕗から海に視点を移した。
「……死にに来たの?」
「あは。一瞬でわかっちゃうなんて流石ハルだね。うん……胡桃には手紙渡してきた。直輝伝いだけど」
 感じる。
 蕗の中の気配。
 姉に似た、母の。
 蕗は胸に手を当てて呟くように言った。
「ボク……いや。おれね、ずっとシヴァって呼んできたターゲットにいつか殺されたかったんだ。あわよくば相討ちって思いながらさ」
 遺言みたいに言うね。
 ハルは波を眺めた。
「けど叶わなかった。ナイフ一本で人は死ぬ。どんなに長く生きてても刃物一つに勝てやしない。おれはもう耐えられないんだ、鏡の中の父の存在に」
「矛盾だよね」
「えっ」
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