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道化師は啼かない
第8章 それぞれの終幕
 マスターの次に長く過ごした他人。
 交わした言葉は少なくても、存在を鬱陶しがっても、ハルにとっては大事な弟のような存在だった蕗。
 だからだろう。
 自分さえ否定する言葉を吐けたのは。
「お前も僕も陵辱を憎んで人を殺した。罪の重さなんてわかりきっているのにそれを重ねてさ。結局最期には救われないってわかっているのに」
 水面に無数の光が煌めく。
 蕗もハルの隣でそれを見下ろした。
「救われたいなんて考えたこともなかった」
 風が強く吹く。
 同じ色の二人の髪が揺れる。
「僕もだ」
 不思議な存在だ。
 呑まれそうになる。
 深く沈んで蒼に包まれたいと。
「ハル」
「……ん?」
「全部錯覚だったってことにしてみたら」
 蕗がこちらを向く。
 真剣な眼で。
 知らなかった。
 瞳の色さえ。
 深く暗い緑。
「……出来ないか」
 蕗は明るく笑った。
「この世は鏡だらけだもんね。カミサマって意地悪だと思う。一番見たくないものを他人の瞳に映すんだ。鏡だって見れやしない」
「母さんの言葉?」
 蕗らしくない言葉につい口に出た。
「おれのだよ」
 少し不貞腐れて。
「これはおれの躰だもん」
「あと何分かは、ね」
「そう。でも最期まで」
 止められないんだろう。
 無意識でハルはそう感じた。
「お別れだね、ハル」
「そうだね。お前がそう言うならそうなんだろう」
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