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道化師は啼かない
第3章 死体越しの再会

「ちょっと、血臭いんだけど」
「お前の方がね」
乾いた声でそれだけ云ってレールから離れる。
しかしトコトコ後ろから少年は付いてくる。
そうだ。
名前を忘れていた。
この少年は蕗。
ふきのとうの、ふき。
ハルは彼を四歳の頃から知っている。
胡桃が抱えていた幼児は、今では彼女を脅かす快楽殺人者。
真っ白な髪が気に入っているらしく、依頼人には自分のことをシロと呼ばせている。
三流らしくて相手を油断させられるから都合がいいらしい。
「マスターはなにか云ってたー?」
大声で叫ぶ蕗を睨む。
少年は舌を出して笑った。
悪びれもなく。
「何も云ってない」
「そっか。じゃ、またね。ハル!」
タトンとレールから飛び降りると、雑踏に駆け込んでいく。
彼の姿が消えてからハルは頭を押さえた。
仕事の最中に蕗に遭うなんて今日は余り吉日ではないな。
むしろ厄日だね。
さっきまでの快感が潮のように引いていく。
早く仕事を終わらせよう。
ハルはいつになく早く歩く。
次の標的はもうすぐここを通る。
時計台の脇で立ち止まる。
ふっと右から風が吹いた。
眼を上げると、紫の煙。
あれだ。
背後から気配が歩み寄る。
「早めに死体は処理しろ」
うなじを舐めるように去った唇。
ハルは怪訝そうに顔をゆがめて振り返る。
今までとは違う。
初めての忠告。
いつもは煽るような言葉を吐くというのに。
蕗の言葉を思い出す。
マスターが何を云うと思ったんだ。
仕事の後に何か起きるという啓示だろうか。
「心臓一突きで終わらせても僕はいいんですけどね」
メガネを押し上げ暗く呟く。
標的に向かいながら、人の波を抗って進む。
今朝から感じる音へのざわつき。
そっと耳に触れる。
ぬるりとして指を見ると、真紀のであろう血が付いていた。
とっくに乾いているはずなのに。
「なんでしょうね。気持ち悪い」
そしてハルは麗奈のいる構内に足を踏み入れた。
「お前の方がね」
乾いた声でそれだけ云ってレールから離れる。
しかしトコトコ後ろから少年は付いてくる。
そうだ。
名前を忘れていた。
この少年は蕗。
ふきのとうの、ふき。
ハルは彼を四歳の頃から知っている。
胡桃が抱えていた幼児は、今では彼女を脅かす快楽殺人者。
真っ白な髪が気に入っているらしく、依頼人には自分のことをシロと呼ばせている。
三流らしくて相手を油断させられるから都合がいいらしい。
「マスターはなにか云ってたー?」
大声で叫ぶ蕗を睨む。
少年は舌を出して笑った。
悪びれもなく。
「何も云ってない」
「そっか。じゃ、またね。ハル!」
タトンとレールから飛び降りると、雑踏に駆け込んでいく。
彼の姿が消えてからハルは頭を押さえた。
仕事の最中に蕗に遭うなんて今日は余り吉日ではないな。
むしろ厄日だね。
さっきまでの快感が潮のように引いていく。
早く仕事を終わらせよう。
ハルはいつになく早く歩く。
次の標的はもうすぐここを通る。
時計台の脇で立ち止まる。
ふっと右から風が吹いた。
眼を上げると、紫の煙。
あれだ。
背後から気配が歩み寄る。
「早めに死体は処理しろ」
うなじを舐めるように去った唇。
ハルは怪訝そうに顔をゆがめて振り返る。
今までとは違う。
初めての忠告。
いつもは煽るような言葉を吐くというのに。
蕗の言葉を思い出す。
マスターが何を云うと思ったんだ。
仕事の後に何か起きるという啓示だろうか。
「心臓一突きで終わらせても僕はいいんですけどね」
メガネを押し上げ暗く呟く。
標的に向かいながら、人の波を抗って進む。
今朝から感じる音へのざわつき。
そっと耳に触れる。
ぬるりとして指を見ると、真紀のであろう血が付いていた。
とっくに乾いているはずなのに。
「なんでしょうね。気持ち悪い」
そしてハルは麗奈のいる構内に足を踏み入れた。

