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道化師は啼かない
第3章 死体越しの再会

 トントントン……
 指先が机に跳ねる。
 ぴたりと止まったかと思うと、今度は透明なグラスに這っていき、濡れた側面を滑る。
 尺取虫のように頭を浮かせてゆらゆら。
 一体何の兆しなのか。
 私は道化が動かす指を見下ろし、それから顔を上げた。
 目線の先には紫の煙。
 もう顔も見えないほど包まれた女子高生がその中に座っている。
 全国チェーンの喫茶店。
 ランチ時のこの時間帯は満席だ。
「なんであの子学校行ってないのかしらね」
 道化が呟く。
「そんなこと言ったら私だってそうでしょ」
「あんたは私が無理やり引っ張ってきたからじゃない」
 ジューっと音を立ててストローを吸う。
 メロンソーダの甘ったるい香りが肺を満たす。
 道化と私は大抵好みが合わない。
 そして、譲るのは私。
 ブラックコーヒーを頼もうとしたら舌を噛んでやると怒鳴りかかってきたこともある。
 今回はその教訓を生かしてケーキセットを初めに注文した。
 けれど、不思議だ。
 これから人の死を見るというのにのんきに喫茶店でソーダを飲んでいるなんて。
「こうでもしなくちゃ発狂しそうだからよ」
 道化が静かに否定する。
 首に手を当て、ぐっと締める。
 一瞬だけ息が止まった。
 ヒュッと空気の音。
 それから手を降ろす。
「どう? 人って脆いと思わない? 自分の手で自分の首を折ることだってできちゃうかもよ」
「あなたは私に死んでほしいの?」
「まさか」
 笑い飛ばすような口調。
 わからない。
 だったら、なぜこんなふざけをやるのか。
 もやもやと。
 グラスの中で空を目指す泡を見つめて。
 もやもや。
 人の心も微発泡していたなら、もっとスッキリするだろうに。
「それ賛成だわ」
「馬鹿にして」
「しゅわしゅわしてりゃ、狂わずに済むんだよ……まともなこと何一つ考えないでバカでいればさ。余計な事で脳が埋まるから人間はだめなんだ。本能も忘れて死ぬ瞬間ですら死後なんか冷静に考えちゃってる。動物の方がよっぽど生きることには真剣だと思わない? 思わないか。あんたは十六年間人間だもんね」
 貴女だって。
 そういいたくなる。
 トン。
 指が止まる。
 標的が立ち上がった。
 携帯端末だけに意識を向けたまま。
 この先の運命も知らずに。
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