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道化師は啼かない
第4章 錯覚と残り香
見たくない。
これ以上、人が苦しむ姿なんて。
「悪趣味だよ……」
「でも私はずっと見てきたわ」
ズクンと胸が痛む。
抉られた。
あまりの衝撃に。
見てきた。
人が死ぬところを。
弟に人が殺されるところを。
時には自分が殺される感覚を味わって。
「狂ってる……ありえないよ、そんなの」
ボロボロと涙が太腿に落ちる。
鼻を啜り、嗚咽を堪える。
自分の体験していない、なのに確かにある記憶。
道化の記憶が脳を蝕む。
あの煙のように。
「申し訳ないことを今からいうけど」
道化にいては珍しい躊躇。
「……なに?」
「あたしの所為であんたが死ぬかもしれない」
音が消える。
静寂の中で言葉を反芻する。
「は?」
震えも涙も止まる。
「なに言ってんの」
「今はそれしか言えないけど」
「いや、意味わかんない。なんで。私がハルに殺されるってこと?」
「ハルかもしれないけど」
「はあ? あの男以外にもいるのっ。どういうこと」
「それはちょっと」
「他に誰かいるの?」
誰に向かってでもなく立ち上がる。
体が熱い。
「はっきりしてよ!」
「わかった……はっきり言うね」
低くなった声にびくりとしてしまう。
虚勢を張った分、怖くなる。
「いや。やっぱり今度にする」
「なにそれ」
「確かめたいし」
道化が心の奥に引きこもってしまう。
「なにをよ!」
虚しく響く自分の声。
また壁にもたれて腰を下ろす。
「なにをよ……バカ」