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道化師は啼かない
第4章 錯覚と残り香
 だが、逆に彼は来客に近づいた。
 ざわっと胡桃は鳥肌立つ。
 彼が自分以外と話すのを見たことないからだ。
 否、彼女の家族を除いて。
 スッと彼の肩に手を伸ばしかけて目を見開き拳を握る。
「はい? わかりませんけど」
 胡桃が眉をひそめる。
 彼女には彼が突然ハルに尋ねたように見えたから。
「いえ、人違いだったらすみませんが、水野さんですか」
 社交辞令の笑みで。
 胡桃はさらに置いていかれる。
「ええ。どこかでお会いしましたか?」
「は?」
 つい出た声に二人の男が目を向ける。
「あっ、いや。二人知り合いなの?」
「さあ、どうでしょう」
 水野という男が苦笑しながら云う。
 どういうことよ、それ。
 胡桃は用意も忘れて呆気にとられる。
「あ、テーブルに持ってきてもらえます?」
「え? はい」
「ご一緒しましょう」
「喜んで」
 親しげに言葉を交わして、カウンターから最も遠い場所に席を取る。
 奥に水野が、手前にハルが座る。
 座るところ久しぶりに見た。
 そんな胡桃の驚きも他所に。
 会話が聞こえないのをもどかしく思いながらも料理を始める。
「この辺の担当があんたか」
「どの地区から来たの」
「遠くから」
「曖昧だね」
「曖昧だ」
 ハルは頬杖をついて相手を見つめる。
 水野なんて出鱈目。
 思いつきで話を合わせただけ。
 間違いなく同業者だ。
 蕗のほかにこの地区にいるとは思わなかった。
「本当の名前は?」
 男がにやりと笑う。
「岸直輝」
「それ本名?」
「一応そういうことにしてくれたら話が進んで楽。そっちは?」
「山田次郎……っても信じないだろうけど」
「信じないねー」
「久谷ハルだよ」
 直輝が閃いたように手を打つ。
「ああ! 有名だよ」
「最悪。死ねばいいのに」
「お喋りな依頼人は中々死なないよなー」
「本当にね」
 胡桃がそろそろと足音を立てないようにして近づいてきていたが、その努力も虚しく二人は会話を止めていた。
 直輝が会釈して、彼女が去った後に口を開く。
「あんた意外に若いんだな。簡単にやれそうじゃん」
 細い目を厭らしく釣り上げて云う。
「僕もそう思うけど」
「はははっ、最高」
 乾いた笑いで隠しもしない敵意。
 ハルは面倒なことをしたと早速難儀になっていた。
 だが、彼を放置して仕事中に出くわす方が余程難儀な羽目になる。
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