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道化師は啼かない
第4章 錯覚と残り香
 体勢は崩さずに一歩横に逸れると、すぐそばを自転車が過ぎて行った。
 またか。
 直輝が腕を掴んだままニイッと笑う。
「きをつけなさい、ハルくん」
 母親口調で。
 それには答えず腕を払う。
 直輝はカカカと楽しそうに笑うと、欄干に飛び乗った。
 それほど長い橋ではないとはいえ、その高さは一メートル余り。
 風も強い。
 ハルは声を発しようとして、蕗を思い出した。
 いつもガードレールの上を歩く蕗を。
 開きかけた口を閉じる。
 手を後ろに組んで飄々と歩く直輝に、かける言葉を忘れた。
「あー。キモチイイ。この街はいいね。川もあるし、でけえデパートもあるし、展望台もあるし、新幹線も通ってる」
「大したことじゃない」
「大したことだね。都会の民にはわかんねえだろうけどな」
「僕は下町に住んでるよ」
 言った瞬間はっとする。
「おっ。口が滑ったな。この辺で徒歩圏内の下町と呼べる箇所は限られてくるぞ? 今夜あんたが帰宅するまでには家の位置を突き止めてるかもしんねえ」
「それはないよ」
「どうかな」
 タトン。
 橋の終わりで直輝が飛び降りた。
 近くのバス停で立っていた老人が不審そうに此方を睨んだ。
 それに対して笑顔で会釈する直輝。
 悪びれもなく。
 無邪気に。
 いや、邪気だらけだけどね。
「あとなんだっけ。質問」
「どこまでついてくる気?」
「ああーっ。それだったな。とりあえずはあんたの今日の仕事場までかな」
「ふざけないで」
「本気だっての。オレあんたのファンなんだよ。依頼主からいつも聞かされててよ。お前にハルくらいの実力があればっていつもいつも。だから実際あんたの仕事がどれほどのもんか見てみたくてな。間近で。ライブで」
「ライブだったら媒体越しに中継してあげようか」
「ぶはっ。イイ冗談。あんた冷酷だろ。ぶははっ、やべー。超見てえな……あんたが人殺すところ」
 瞬間、ハルの眼に影が差した。
 それは太陽が雲に隠れたからではないだろう。
 メガネを外し、胸ポケットに仕舞う。
 小さな路地を一瞥し、隣を歩く直輝の首筋に手を当ててそこに押し込んだ。
 ビルの谷間のそこは光も届かない薄闇。
 直輝はすぐに手から逃れたが、今までとは違う、警戒した体勢で向かい合った。
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