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道化師は啼かない
第4章 錯覚と残り香

 たぶん蕗の代わりに要求してくる。
 お前の仕事を。
 奪うつもりなんだ。
 もっと酷く。
 もっと派手な事件に仕立て上げて。
 今しかない。
 こいつは油断してる。
 いいだろ。
 別に女じゃなくたって。
 あの時はやれたじゃないか。
 姉の為に。
 三人も。
 やったじゃないか。
 今出来ないわけがない。
 一発殴れば気絶させられる。
 あのチンピラと同じだ。
 何が違う。
 同業者だからか。
「なに難しい顔してんの。時間切れだよ。まさか本当に皆目見当もつかなかったとか」
 いつの間にか目の前に直輝がいた。
 鼻が触れ合いそうな近さに。
 初めてびくりと背中が震えた。
 違う。
 あのチンピラとは違う。
 殴ったところで意味もない。
「蕗は?」
「さあ?」
「胡桃さんにも手を出すつもり?」
「この地区仕切ってんのってあんたと蕗とかいうガキだけだろ」
「ははは、乗っ取るとか馬鹿なこというつもり?」
「そうだけど。なんかおかしいか?」
「可笑しいね。だって……」
 ハルはいつもの落ち着きを取り戻して、余裕ある笑みを張り付けて答えた。
「お前、後ろ見れば?」
「あ?」
 それで振り向く馬鹿な同業者はいない。
 だから、彼は最善のタイミングだった。
 アイコンタクトに応えてくれた。
 これだから、いつもストーカーの如く仕事を見守られている意味があったってものだ。
「アリスはそいつじゃないだろう。なにしてる」
 直輝がバッと振り返る。
 さっきも延々と頭の中に入ってきやがってさ。
 初めから手を貸してよね。
「わかってますよ、ちょっと話してただけです」
 直輝の向こうに立つ長身の男。
 パーカーのフードを被っているせいで全く顔が見えない。
 感じるのはその重圧感だけ。
 呼び込みの平社員を叱りつけていたら突然その社長が現れたような、まさにそんな雰囲気。
 笑える。
 いや、笑えないかな。
 ハルは静かに直輝の横を通り、その男の方に歩く。
「おいっ」
「お前はゆっくり僕の家を探せば? 仕事帰りに殺してあげる」
「ははっ……いきなり態度変わんのな。その上司が来たから強気だってか」
 それは心外だな。
 ハルは眉を潜めて隣の男を見上げた。
 フードの下で、唇の端が持ち上がる。
 笑ってる。
 この気狂い上司は。
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