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道化師は啼かない
第5章 邪な嘘
急いで周りを見渡す。
普段通りのホームルーム。
頬杖を付く男子に、髪をいじる女子。
なに。
胸騒ぎが止まらない。
異変はない。
はっとして目を瞑る。
さっきまでの記憶を鮮明に引き出す。
あの悪寒が始まった瞬間。
私が見ていた光景は。
すぐに結果が割り出された。
恐る恐るその空間に目を向ける。
右斜め前。
ロングのブラウンの髪が垂れるきりっとした後ろ姿。
担任を見上げる横顔。
めくちゃん。
その首に、紫の靄が巻きついていた。
ガタッ。
「なんだー。どうした、芦見。居眠りか」
連絡を中断された担任が不審そうに声をかける。
めくちゃんも振り向いた。
みんなの視線が刺さってくる。
私はぐっしょり汗をかいて机に両手を付いた。
カタカタ足が震えている。
「芦見?」
「だ、大丈夫です」
ぐいっと何かに引かれて上体が元に戻った。
なにしてんのよ、馬鹿。
道化だ。
道化が体を操ったんだ。
私は混乱する頭で冷静に解釈した。
無理やり深呼吸させられる。
「ちょっと、気分が悪いので保健室に行きます」
私じゃない。
道化の声だった。
一階まで降りたところで保健室ではなく女子トイレに入る。
もちろん、そこに鏡があるからだ。
鏡に映った途端に道化がまくしたてる。
「あんたにアレが見える能力があるのは承知しているし、すごいと思うけどね。日常生活に支障をきたしてまで固執して欲しくないの。大体さあ、誰かに怪しまれたらあんたもこれまで守ってきた秘密が台無しになるんだよ。もう少し自覚ってものを持ってよね」
自分が怒っている。
見たことない顔で。
私は鏡の前の洗面台に手をついてもたれかかった。
「麗奈」
「……私だって、見たくてみてるわけじゃない」
「そうね」
息が詰まる。
信じられないくらい簡単に涙がこぼれた。
「めくちゃん……殺され、るの? 近いうちに……あいつに」
ポタポタと。
流しに涙が落ちていく。
普段通りのホームルーム。
頬杖を付く男子に、髪をいじる女子。
なに。
胸騒ぎが止まらない。
異変はない。
はっとして目を瞑る。
さっきまでの記憶を鮮明に引き出す。
あの悪寒が始まった瞬間。
私が見ていた光景は。
すぐに結果が割り出された。
恐る恐るその空間に目を向ける。
右斜め前。
ロングのブラウンの髪が垂れるきりっとした後ろ姿。
担任を見上げる横顔。
めくちゃん。
その首に、紫の靄が巻きついていた。
ガタッ。
「なんだー。どうした、芦見。居眠りか」
連絡を中断された担任が不審そうに声をかける。
めくちゃんも振り向いた。
みんなの視線が刺さってくる。
私はぐっしょり汗をかいて机に両手を付いた。
カタカタ足が震えている。
「芦見?」
「だ、大丈夫です」
ぐいっと何かに引かれて上体が元に戻った。
なにしてんのよ、馬鹿。
道化だ。
道化が体を操ったんだ。
私は混乱する頭で冷静に解釈した。
無理やり深呼吸させられる。
「ちょっと、気分が悪いので保健室に行きます」
私じゃない。
道化の声だった。
一階まで降りたところで保健室ではなく女子トイレに入る。
もちろん、そこに鏡があるからだ。
鏡に映った途端に道化がまくしたてる。
「あんたにアレが見える能力があるのは承知しているし、すごいと思うけどね。日常生活に支障をきたしてまで固執して欲しくないの。大体さあ、誰かに怪しまれたらあんたもこれまで守ってきた秘密が台無しになるんだよ。もう少し自覚ってものを持ってよね」
自分が怒っている。
見たことない顔で。
私は鏡の前の洗面台に手をついてもたれかかった。
「麗奈」
「……私だって、見たくてみてるわけじゃない」
「そうね」
息が詰まる。
信じられないくらい簡単に涙がこぼれた。
「めくちゃん……殺され、るの? 近いうちに……あいつに」
ポタポタと。
流しに涙が落ちていく。