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道化師は啼かない
第5章 邪な嘘
「たまには保健室に来て。なんでも相談に乗るから」
「ありがとうございます」
じゃあ先生。
今のこの状況の私を助けて。
動けないの。
喋れないの。
見えないの。
感触はある。
聞こえもする。
でも、体が私の思う通りに動いてくれないの。
ああ、そうか。
わかった。
先生。
今ね。
道化に体を乗っ取られているの。
先生。
なんでも聞いてくれるんでしょ。
「じゃあ、校門まで送るよ」
「いいって。みんみん。先生に早退伝えといてくれる?」
「……うん」
みんみん。
私ね、大変なことになってるんだよ。
「気をつけて帰ってね」
先生。
この学校の生徒が死ぬかも知れないんです。
ねえ。
誰か聞いて。
聞いてよ。
この足勝手に動かないで。
帰りたくない。
やだ。
なんにも見えない。
怖い。
やめて。
道化。
なにやってんの。
「うるさい」
あ。
道化の声。
「家に着いたら返すから、ちょっと黙ってて」
随分な言い草ね。
居候のくせに。
「へえ。そう思ってたんだ、麗奈」
独り言言いながら歩かないでよ。
変に思われるでしょ。
「別に、誰も聞いてないよ。あんたの声なんて」
ぞくりとした。
「あの二人にも必死で訴えてたのにね。ねえ、わかる? 普段の私の位置にあんたは今いるんだよ。気持ち悪いでしょ、その無力感。嫌になるでしょ。早く出たいでしょ。情けないでしょ。それがいつもの私なの」
わかったよ。
わかったから早く出して。
自分で家にくらい帰れるよ。
「そうかな? 帰り道になにがあるのかわかったもんじゃないのに。あんたはもうハルに見つかってるんだよ」
あなたの弟でしょ。
私じゃなくて標的はあなたでしょ。