この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
道化師は啼かない
第5章 邪な嘘
巻き込んでるのはそっちじゃない。
さっさと解放してよ。
あなたたち姉弟に振り回されるのなんて嫌。
私は普通に高校に通っていたいの。
人が死ぬとこなんて見たくないの。
絶対に。
ましてや知り合いが死ぬのなんて耐えられないの。
めくちゃんね、小学校から同じクラスメイトなの。
「そのめくちゃんが私の弟に殺されるわけ。それがどういう意味かわかる?」
最悪ね。
最低。
「そうだね。最低だよね。だから私はずっと止めようとしてきた。ねえ、ひどいこと言っていい?」
これ以上に酷いことなんてあるの。
ぴたり。
あ、わかる。
今、立ち止まった。
見えないけど、感じないけど。
道化は今、私を見てる。
心の中の私を。
「チャンスだと思ってるの」
一瞬脳が麻痺をした。
だって、今この状況にあまりにふさわしくないポジティブな発言だったから。
なに。
チャンスってなに。
「今日は靄が薄かったでしょ。多分、明日には濃くなって、明後日には顔が見えなくなると思うの。だから、ハルが来るのはその日の放課後。二日後の放課後。めくちゃんの後をつければハルに会える」
ごめん、道化。
初めて言うよ。
死んで。
「あはははっ。だってもしかしたらめくちゃんを救えるかもしれないのよ」
今まで私以外の三人を見殺しにしてきたって自白したじゃない。
どの口が言うのって感じ。
「ふーん。まあそうよね。納得なんてしてくれない……だから、あんたの許可はもういらない」
え?
「だってほら。今、あんたの身体はだれのもの?」
なにいってんの。
「簡単だよ。入れ替わるのなんて」
ねえ。
なにを言ってるの。
「明後日は一日、この身体貸してもらうから」
言い返す前に周りが真っ白に輝いた。
目を瞑って、数秒。
恐る恐るまぶたを持ち上げると、青く光る信号が目に入った。
家の前の交差点だ。
いつの間に、こんなところまで歩いてきたんだろう。
足を踏み出す。
あ。
歩ける。
それだけで、涙がこみ上げた。