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道化師は啼かない
第5章 邪な嘘
がくりと膝をついて足を抱えた。
車の音がする。
その振動も伝わってくる。
唇を噛み締めて、伝う涙を拭う。
こんな、当たり前のこと。
指で頬に触れること。
涙を流すこと。
こんなことすらできなかった。
さっきまでは。
頭がジンジンと痛いのは、歯を強く噛んでいるから。
呼吸が苦しいのは、息が浅いから。
体中の神経を感じる。
張り巡らされた神経を。
こんなことが、今まで自由だったことが、こんなにもありがたいなんて。
でも一箇所だけ、自由じゃない場所がある。
そこから道化がこっちを見ている。
どう。
主導権が戻った心地は。
「……死ね」
あーあ。
嫌われちゃった。
「あんたなんか死んじゃえ。消えろ。私の中から出てってよ」
ふらふらと立ち上がり、電柱にもたれかかる。
家族より近い親友。
私自身。
道化。
それが今は憎くて堪らない。
こいつは私の体を勝手に操った。
そうして由愛先生とみんみんと話した。
帰りたくもないのに早退させた。
今までとは違う。
道化に人生を狂わされる。
そんな気がしてならない。
こいつは危険。
体に刺さったトゲを抜くように、飲み込んだ毒を吐き出すように、私は生物として当たり前のことを思っているだけ。
体内の異物を取り出したいだけ。
それも今すぐに。
怖がり。
ああ、そうだ。
私は怖くなった。
この道化が。
存在が。
怖くなったんだ。
今まで育てた犬が噛み付いてきたように。
予想外のその脅威が怖くなったんだ。
「ねえ、道化。どうしたら消えてくれるの?」
黙り込んだ道化は、心の奥底に沈んでいった。
「……卑怯者」
信号が赤に変わった。
車の音がする。
その振動も伝わってくる。
唇を噛み締めて、伝う涙を拭う。
こんな、当たり前のこと。
指で頬に触れること。
涙を流すこと。
こんなことすらできなかった。
さっきまでは。
頭がジンジンと痛いのは、歯を強く噛んでいるから。
呼吸が苦しいのは、息が浅いから。
体中の神経を感じる。
張り巡らされた神経を。
こんなことが、今まで自由だったことが、こんなにもありがたいなんて。
でも一箇所だけ、自由じゃない場所がある。
そこから道化がこっちを見ている。
どう。
主導権が戻った心地は。
「……死ね」
あーあ。
嫌われちゃった。
「あんたなんか死んじゃえ。消えろ。私の中から出てってよ」
ふらふらと立ち上がり、電柱にもたれかかる。
家族より近い親友。
私自身。
道化。
それが今は憎くて堪らない。
こいつは私の体を勝手に操った。
そうして由愛先生とみんみんと話した。
帰りたくもないのに早退させた。
今までとは違う。
道化に人生を狂わされる。
そんな気がしてならない。
こいつは危険。
体に刺さったトゲを抜くように、飲み込んだ毒を吐き出すように、私は生物として当たり前のことを思っているだけ。
体内の異物を取り出したいだけ。
それも今すぐに。
怖がり。
ああ、そうだ。
私は怖くなった。
この道化が。
存在が。
怖くなったんだ。
今まで育てた犬が噛み付いてきたように。
予想外のその脅威が怖くなったんだ。
「ねえ、道化。どうしたら消えてくれるの?」
黙り込んだ道化は、心の奥底に沈んでいった。
「……卑怯者」
信号が赤に変わった。